高度不妊治療を受ける女性が感じるストレス要因が明らかに 「終わりの見えない治療」が最多、治療方針をともに考える支援が必要
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)社会医学研究部の加藤承彦室長、髙畑香織共同研究員らの研究グループは、体外受精などの高度不妊治療[1]を開始して早期の女性が最も強く感じているストレス要因は何か、またそれらとメンタルヘルスの状況との関連を調べました。
研究には、高度不妊治療を受ける女性(344名)を対象とした疫学調査のデータを用いています。
自由記載欄のコメントを分析した結果、次の4つのネガティブなストレス要因が抽出されました。①「終わりの見えない治療」(28%)、②「ひとりで抱え込む苦しみ」(25%)、③「アイデンティティの揺らぎ」(15%)、④「高額な治療費」(17%)。
- 「終わりの見えない治療」に強くストレスを感じている女性が最も多く、そのうち抑うつ症状ありと判定された割合は70%でした。特徴として、相談や不妊治療開始から3年以上経過した方が多く含まれていました。
- 「ひとりで抱え込む苦しみ」は、パートナーや、職場、医療施設への不満など、自分以外の外的要因へ向けられており、情報不足や意思決定支援を求めていました。
- 「アイデンティティの揺らぎ」がストレスであると感じる女性は、不安が高まっている状態[2]と判定された割合が最多でした。特徴として、婦人科疾患の既往、不妊原因が女性のみ、または男女と回答した割合が多く、健康関連 QOL 尺度(SF-12)は最も悪くなっていました。
- 「高額な治療費」をストレスと感じる女性は、世帯年収900万以下の共働き世帯が多いですが、特別なメンタルヘルスの悪化は認めませんでした。なお、本研究は保険適用前に実施されています。
本研究の結果、高度不妊治療におけるストレス要因は複合的ですが、個人が最も強く感じている要因とメンタルヘルスの状況が関連している可能性が示唆されました。不妊治療への金銭的、精神的な支援対策は少しずつ増えてきていますが、不妊治療に関する情報提供の充実や意思決定支援など、今後の治療方針をともに考える支援の必要性が示唆されました。
プレスリリースのポイント
- 体外受精などの高度不妊治療を受ける女性のネガティブなストレス要因として、「終わりの見えない治療」「アイデンティティの揺らぎ」「ひとりで抱え込む苦しみ」「高額な治療費」の4つが抽出されました。
- ポジティブな要因として「治療のステップアップ」が抽出されました。
- 不妊治療に関する情報提供の充実、今後の方針に悩む方の意思決定支援など,今後の治療方針をともに考える支援の必要性が示唆されました。
研究概要
本研究では、「高度不妊治療を受ける女性を対象とした追跡調査プロジェクト」のデータを用いました。この調査の初回および二回目調査の量的データはKato et al.(2019)にて報告されています。
本研究の対象者は、①子どもがいない、②採卵が2回まで、③自由記載欄の記述があり、という条件を満たした344名です。分析では質的なデータである自由記載から判断されるストレス要因について参加者1名に1つのカテゴリー[1]を対応させ、量的なデータである心理尺度と統合して考察しました。
発表論文情報
タイトル:生殖補助医療の治療早期における女性のストレス:混合研究法
執筆者:髙畑香織1, 2,加藤承彦2 ,三瓶舞紀子2, 3,齊藤和毅4,森崎菜穂2, 浦山ケビン 2, 5
所属:
1. 湘南鎌倉医療大学, 神奈川県鎌倉市山崎1195-3
2. 国立成育医療研究センター, 東京都世田谷区大蔵2-10-1
3. 日本体育大学, 東京都世田谷区深沢7-1-1
4. 東京医科歯科大学, 東京都文京区湯島1-5-45
5. 聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科, 東京都中央区築地3-6-2
掲載誌:日本受精着床学会誌(2023年9月号)
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