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微量の涙でアレルギー性結膜炎を診断

アレルギー性結膜炎の新規診断システムを共同開発へ

佐賀大学医学部分子生命科学講座の出原(いずはら)賢治教授、鶴見大学歯学部付属病院眼科の藤島浩教授、国立成育医療研究センター研究所免疫アレルギー・感染研究部の岡田直子研究員、松本健治部長らを中心とする研究グループは、涙に着目し、アレルギー性結膜炎患者においてはペリオスチンというタンパク質が涙液中に高濃度に存在していること、さらにその濃度を測定することで、アレルギー性結膜炎の有無や重症度を精度よく判別できるバイオマーカーであることを発見しました。

本プレスリリースのポイント

  • ヒトの涙の中にあるペリオスチンというタンパク質が、アレルギー性結膜炎患者において涙液中に高濃度に存在していること、そしてアレルギー性結膜炎の有無や重症度を精度よく判別できるバイオマーカー(診断薬の材料)であることを発見しました。
  • 簡便で非侵襲的かつ高精度なアレルギー性結膜炎の新規診断薬として、臨床現場での応用、実用化が期待されます。
  • 今後、アレルギー性結膜炎の新規診断システムをメーカーと共同で研究開発してまいります。

背景

アレルギー性結膜炎の患者数は年々増加しています。アレルギー性結膜炎は目に起きるアレルギー性の炎症疾患です。かゆみや充血、浮腫を主体とする様々な症状により、日常生活におけるQOLや仕事の効率の低下を引き起こすことが問題になっています。我が国では約2,000万人のアレルギー性結膜炎患者がいると推定されており、その患者数は近年増加傾向にあります。その大半はスギ花粉症によるものですが、一方で、アトピー性皮膚炎に合併して発症するアトピー性角結膜炎(AKC)や思春期の男子に多い春季カタル(VKC)など、慢性化、重症化するタイプも少なからず存在します。
これらの重症患者では角膜への炎症に伴い視野障害を引き起こすことがあり、また既存の点眼薬では治癒が難しく、非常に深刻です。アレルギー性結膜炎による苦痛を防ぐためには、早期かつ適切な診断とそれに応じた治療を受けることが欠かせません。しかし、類似した結膜疾患も多く、確定診断は容易ではありません。
したがって、アレルギー性結膜炎による苦痛を防ぐためには、適切な診断と治療が最も有効であり、より簡便に診断できる技術が期待されています。一方で、従来の血液によるアレルギー検査は、採血時に痛みを伴い、かつ高額で時間がかかること、眼の状況を反映しているかどうかがわからないなど、欠点がありました。

研究手法と成果

涙液は、眼表面を覆う体液のひとつです。約98%が水分ですが、他にムチンや油、タンパク質などの成分で構成されています。1日に平均2-3mL分泌されており、角膜や結膜の水分や栄養を補給する作用や、細菌やウイルスから目を防御する機能があります。また、アレルギーや感染などの際には、眼の状態を表す特定のタンパク質が涙液中で増加することが知られており、眼科領域では診断に応用できる可能性が示唆されていました。
研究グループはまず、アレルギー性結膜炎患者(アトピー性角結膜炎(AKC, n=26)、 春季カタル(VKC, n=4)、季節性アレルギー性結膜炎(SAC, n=15)、健常ドナー(control, n=14))の涙液を対象として、アレルギー炎症時に重要なメディエータ―であるIL-13(インターロイキン13)というサイトカインを濃度測定しました。すると、重症アレルギーであるAKCでは健常ドナーに比べてIL-13の濃度が有意に上昇していました(図1)。しかし、本検討においては、比較的軽症のSACでは有意な差は確認できませんでした。
次に、ペリオスチンというタンパク質に着目し、同様に濃度測定を行いました。ペリオスチンはIL-13などのサイトカインによって組織構成細胞から産生されることが知られており、これまでに気管支喘息やアトピー性皮膚炎など、様々なアレルギー性炎症疾患でバイオマーカーとしての有用性が報告されている細胞外マトリックスタンパク質です。
その結果、重症アレルギーであるアトピー性角結膜炎や春季カタルだけでなく、季節性アレルギー性結膜炎患者においても健常ドナーに比べてペリオスチンの濃度が著明に高く、かつIL-13よりもより有意な変化があることを明らかにしました(図2)。また、AKCの重症例においては、結膜の増殖や角膜障害を頻繁に起こしますが、涙液中のペリオスチン濃度は、このような結膜増殖や角膜障害の存在によって有意に濃度が増加しました。よって、涙液中のペリオスチン濃度はアレルギー性結膜炎の症状や疾患の重症度と非常に関連性が高いことを明らかにしました(図3)。
さらに、涙液中のペリオスチン濃度を用いたアレルギー性結膜炎診断の感度・精度を調べるために、ROC解析を実施しました。すると、AKC患者(n=31)と、アトピー性皮膚炎患者で眼症状を発症していない症例(n=16)の比較においては、涙液中ペリオスチン濃度を6.6ng/mLにカットオフ値を設定すると、感度、特異度はそれぞれ96.8%, 93.8%と非常に高値でした。さらに、AKC患者において角膜障害のある症例(n=19)と障害がない症例(n=8)についても同様に比較検討したところ、涙液中ペリオスチン濃度を105ng/mLにカットオフ値を設定すると、感度、特異度はそれぞれ91.3%, 75.0%でした(図4)。これらの結果より、涙液中ペリオスチン濃度はアレルギー性結膜炎の症状の有無や重症度を正確に判定できるバイオマーカーとして有用性が高いことがわかりました。

今後の展望・コメント

涙液中のペリオスチン濃度測定によってアレルギー性結膜炎を診断することは、以下のような優れた利点があります。
  • 非侵襲的に(痛みや苦痛を伴わない)かつ、微量の涙液量(5-10マイクロリットル程度)での測定が可能であること
  • アレルギー性結膜炎の有無や、アトピー性皮膚炎での結膜炎合併を感度よく判定できること、結膜炎の原因がアレルギー性かどうかを判定できること
  • アレルギー性結膜炎症状の重症度や治療効果をよく反映するため、経過観察中にも有用であること
涙液ペリオスチン測定系については、簡易に測定するためのシステムをすでにメーカーと共同開発しています。将来の実用化に向けて、今後も研究開発を続けていく予定です。

用語解説

細胞外マトリックスタンパク質:細胞と細胞の間に存在し、細胞の接着を補助して組織の構造を保持するだけでなく、細胞増殖因子を保持・提供したり、それ自身が細胞の活性化を誘導したりする機能的なタンパク質

お問い合わせ先

国立大学法人佐賀大学医学部分子生命科学講座 教授 出原 賢治
電話番号 0952-34-2261 
E-mail:kizuhara@cc.saga-u.ac.jp

鶴見大学歯学部付属病院眼科 教授 藤島 浩
電話番号 045-580-8500
E-mail:fujishima117@gmail.com

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー・感染研究部
部長 松本 健治
電話番号 03-5494-7120 (ext. 4950)
E-mail: matsumoto-k@ncchd.go.jp

この研究の成果を詳しく解説できる専門家

慶應義塾大学医学部 眼科学教室 教授 坪田 一男 
電話番号:03-3353-1211 (代)
E-mail:tsubota@z3.keio.jp

東京女子医科大学病院 眼科学教室 教授 高村 悦子
電話番号:03-3353-8111 (代)
E-mail:takamura@oph.twmu.ac.jp

図2の画像

図3の画像

図4の画像

本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時


※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。

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