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理事長挨拶

理事長 五十嵐 隆

理事長 五十嵐 隆

国立成育医療研究センターは受精・妊娠に始まり、胎児期、新生児期、乳児期、学童期、思春期を経て次世代を育成する成人期へと至るライフサイクルに生じる疾患(成育疾患)に関する医療(成育医療)と研究を推進するために設立されました。この目的を目指す上で忘れてはならないのは子どものためのアドボカシー(advocacy:自己主張できない存在の代わりになってその存在のために行動すること)の理念です。

当センターは、必要とする全ての子どもや青年そして妊娠・出産に関わる女性に優れた成育医療を提供します。感染症などの急性疾患や難病などの慢性疾患を持つ子どもとそのご家族、合併症妊娠や出産を願う女性とそのご家族が安心して医療を受けることができるように、安全でこころのこもった医療・看護・患者支援を行うことを第一に心掛けます。また、子どもや青年とご家族をbiopsychosocial(身体的・心理的・社会的)に把握し、支援することを目指します。

優れた医療を提供するには優れた医学研究が不可欠です。医療と医学研究とが補い合う存在であるからです。世界の医療や医学を革新する優れた成果を生み出すために、当センターでは病院と研究所が密接に協力していきます。医学研究には、iPS細胞やES細胞などを用いた基礎医学研究から、再生医療や遺伝子治療などの基礎医学研究の成果を臨床に応用するための研究、患者を対象とする臨床研究、さらに、心理・社会学的な研究まで多岐にわたります。私たちは研究体制をさらに強化し、世界をリードする基礎・臨床研究を目指して努力します。一方、障害や病気を持って成長する子どもや青年とご家族の支援についても忘れてはなりません。慢性疾患を持つ子どもや青年とご家族を支援するために2016年春から運営を開始した「もみじの家」は、子どもや青年の在宅医療の支援施設として順調に運営されており、たくさんの方からのご支援を頂いています。この場をお借りして、感謝申し上げます。同様の施設が日本中に広まる事を願っています。

新型コロナウイルスCovid-19感染症は小児医療や小児保健にも大きな影響を及ぼしています。幸いなことに、ほとんどの小児は感染しても重症化することはありません。ただし、必要な治療や予防接種・健診を控える保護者の行動が子どもの心と体の健康を阻害する結果を生じさせています。適切な時期の治療、予防接種、健診などを安心して受ける事ができる様、当センターでは感染防御対策に引き続き努めて参ります。

当センターの全ての職員は、成育医療や医学研究を通じて社会に貢献したいと考えています。しかしながら、医療や医学研究には多くの矛盾と危険性が含まれています。人を対象とする研究を行って成果を得るとはいかなることか、医療や医学研究に貢献するとは何か、自分たちの仕事を通して私たちはどのような社会を作ろうとしているのかなどの省察が常に当センターの全ての職員にも求められています。さらに、私たちが得意とする成育医療、看護、保健、福祉、医学研究、医学教育の分野で将来頑張ってくれる若い有能な人材を育て上げることも当センターの重要な使命です。

当センターは2016年に米国の評価機関 "Top Master's in Healthcare Administration" から、高度な技術を有する世界の小児病院30の一つに選ばれました。また、2019年末に施行された成育基本法の趣旨を十分に意識し、日本の成育医療と医学研究を推進するため、これからも一層の努力をいたす所存です。多くの方々のご支援とお力添えを頂けますよう、お願い申し上げます。

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