子どもの健康の地域間格差が拡大している可能性
我が国の115年間の人口動態統計調査を分析
国立成育医療研究センター政策科学研究部森臨太郎部長の研究グループは、同臨床研究教育部永田知映室長、同臨床疫学部盛一享德上級研究員らと協力し、我が国の子どもの健康における都道府県間格差について、115年分の人口動態統計調査による大規模データを利用した分析を行い、その変化を明らかにしました。
この研究成果は権威ある英文科学系雑誌であるPediatrics International誌より発表されました。プレスリリースのポイント
現在の我が国において、様々な格差の拡大は大きな社会問題となっています。劇的な社会・経済の転換を経験した近・現代の日本において、子どもの健康における格差がどのように変化し、近年その変化はどのようになっているのかを検証しました。我が国の人口動態統計115年分の大規模データをもとに、子どもの健康に関する評価基準の一つである5歳未満死亡率について、都道府県間の格差の経年的変化に関する分析を行った結果、子どもの健康に関する格差指標が世相を反映して大きく変動している事が分かりました。
- 子どもの健康における格差指標は、戦後一時的に大きく上昇し、1962年にピークに達した後に、徐々に改善し、1970年代には非常に低い値になりました。
- しかし、2000年代に入ってから、格差指標は再び上昇し始めており、子どもの健康における格差が広がってきている可能性があることが分かりました。
- 我が国の5歳未満死亡率は一貫して減少傾向にあり、現在の5歳未満死亡率は他の先進国と比較しても非常に低いことが分かります。したがって、今回観察された格差指標の上昇にどのような意味があるのかは、注意深く検討する必要があります。
背景
格差社会といわれる現在の我が国において、子どもの貧困は今や大きな社会問題となっています。種々の格差と健康の関連性についての報告は多くありますが、劇的な社会・経済の転換を経験した近・現代日本において、子どもの健康における格差がどのように変化してきたかについての報告はありません。本研究では、子どもの健康に関する指標の一つである5歳未満死亡率における都道府県間格差の年次推移について検討を行いました 。
研究手法と成果
本研究は、我が国で近代的な人口動態統計がとられ始めた1899年から2014年までの115年間のデータを解析したものです。各都道府県の年毎の5歳未満死亡率を計算し、さらに5歳未満死亡率の都道府県間格差の年次推移を検討するために、格差を測る指標であるTheil indexを年毎に計算しました。Theil indexの値が大きいほど格差が大きい、Theil indexの値が小さいほど格差が小さいと解釈されます。5歳未満死亡率 (出生1,000対)は1899年の238人から、2014年の3人まで一貫して低下していました。5歳未満死亡率のTheil indexは、第2次世界大戦後に上昇して1962年にピーク(0.027)に達したのち、徐々に下降して1970年代には0.01未満まで低下していました。しかしながら2000年代に入って、5歳未満死亡率は継続的に下降しているにも関わらず、Theil indexは上昇しはじめ、2014年には0.013 と1970年の値を超え、第2次世界大戦以前の値に近くなっていることが分かりました。
今後の展望・コメント
本研究により、子どもの健康の地域間格差を表す指標が、近年悪化していることが示されました。今後は今回検討した格差を測る指標の変化が、真に子どもの健康における格差の拡大を示しているのか、またそうであればその要因は何かといったことについて、より詳細な検証が求められます。
発表論文情報
- 著者:Chie Nagata, Akinori Moriichi, Naho Morisaki, Ruoyan Gai-Tobe, Akira Ishiguro, and Rintaro Mori
- 題名:Japan's 115-year trend of inter-prefectural disparities in under-five mortality
- 論文発行元:Japan Pediatric Society
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