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ES細胞から機能的で動きも伴う立体臓器(「ミニ腸」)を創り出すことに成功

臓器創成の飛躍的成果により腸の難病治療、そして創薬開発を加速

国立成育医療研究センター(五十嵐隆理事長)は、試験管内でヒトES細胞から、蠕動*1様運動、吸収や分泌能などのヒト腸管の機能を有する立体腸管の創成に世界で初めて成功しました。これは、国立成育医療研究センター(松原洋一研究所長)再生医療センター阿久津英憲生殖医療研究部長、梅澤明弘センター長のグループと臓器移植センター笠原群生センター長を中心とした研究グループの成果で、大日本印刷株式会社、東北大学の研究者らの協力のもとに進められました。

プレスリリースのポイント

  •  ヒト臓器の中でも複雑な構造、機能を有している腸管をヒトESおよびiPS細胞から試験管内で創り出すことに成功した(ミニ腸)。ミニ腸は生体腸管のように蠕動様運動をし、吸収能や分泌能を備えている。
  •  ミニ腸は試験管内で長期に維持することが可能であり、薬品の試験も繰り返し行うことが出来ることから、創薬開発では極めて革新的なバイオツールになり得る。
  • 先天性の小腸の病気や潰瘍性大腸炎、クローン病に代表される原因不明の慢性炎症性腸疾患などに対する画期的な治療法開発の手段として期待される。

背景・目的

ヒトES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、すべての種類の細胞に分化する能力(分化多能性)を有し、試験管内で医学や創薬開発などに有用な特定の細胞を作り出すことで注目を集めています。例えば、ある特定の細胞種の機能低下により起こる病気に対して、ヒトES細胞やiPS細胞から新しく細胞を作り移植して治療する再生医療が行われています。世界では、有効な治療法のない病気に対するヒトES細胞を用いた再生医療は、50症例以上行われています。
これまで多能性幹細胞から特定の細胞種を分化誘導する研究が勢力的に進められてきましたが、近年「複雑な組織構造」をもつ立体構造体を試験管内で形成する挑戦的な研究も進められています。
しかし、試験管内で「生体に近い複雑な臓器」を創り出すことにはいくつかの大きな課題があります。構造を立体化するだけでは意味が無く、臓器を構成する様々な細胞種が存在し、各組織を構成するとともに特定の機能を発揮しなければなりません。これまでの報告では、限定した細胞種で試験管内での「複雑な組織構造」は機能も限定した成熟度が限られたものでありました。
ヒト臓器の中でも腸管は複雑な構造と機能を有しています。腸管は、内胚葉、中胚葉と外胚葉由来の細胞・組織が密に連携して、消化、吸収、腸管免疫や蠕動運動などを行い、発生上早期に各組織が分かれてしまうため試験管内での再現は極めて困難だと言われています。
今回、研究グループは、マイクロファブリケーション(微細加工)技術を培養底面の基材へ応用し、細胞の自己組織化する能力を引き出すことでより高度で複雑な「小さい腸管(ミニ腸)」の試験管内での形成に挑戦しました。

研究手法と成果

(1)マイクロファブリケーション(微細加工)技術による培養空間の創造図1】
微細加工技術を応用し試験管内の底面に対して細胞接着をパターン化した培養空間を開発し、ヒトES細胞やiPS細胞が自己組織化能を発揮し立体組織化することを見出しました。
(2)異種成分を全く含まない培養環境(ゼノフリー)
これまで国立成育医療研究センターでは、ヒトES細胞の樹立に成功し、動物由来成分を全く含まない条件でのヒトES細胞の樹立にも成功しています。これまでの成果を基に、ミニ腸創成も異種成分を一つも含まないゼノフリー培養システムを開発しました。
(3)ヒトES細胞の自己組織化による腸管組織に酷似した立体臓器形成
ヒトES細胞はパターン化した接着面で増殖・分化し内部に空間をもった立体構造体ができ、接着面から離れ浮遊してきます。この経時的過程で腸管発生の遺伝子発現解析を行ったところ、生体の腸管発生を模倣するように発生段階が立体構造体形成とともに進んでいました。浮遊立体構造体を固定標本化し組織構造解析、腸管特異的タンパク質発現解析や電子顕微鏡解析から生体の腸管に近い組織形態をもつことが分かりました。
(4)生体腸組織が有する様々な機能を持つ「ミニ腸」
立体構造体は、自律的に蠕動様の運動を行い、ヒトで下痢や便秘の際に使用する薬剤に生体の腸同様に反応することを確認しました。また、吸収分泌についても生体腸のような機能を示しました。複雑な構造、機能を有しているヒト腸管をそのまま小さくしたような立体臓器、「ミニ腸」を試験管内で創り出すことに世界で初めて成功しました。ミニ腸は、試験管内で長期に生存し、薬剤試験にも繰り返し使用することができます。

生体の腸(小腸)の機能を有する小さな臓器(ミニ腸)の作製法の画像
生体の腸(小腸)の機能を有する小さな臓器(ミニ腸)の作製法

今後の展望

ヒト臓器の中でも複雑な組織構造をとり、消化、吸収、腸管免疫や蠕動運動など様々な機能を有している腸管は、試験管内での再現は極めて困難だと言われています。今回、研究グループは、ヒト多能性幹細胞から試験管内で生体の腸管機能をもつ立体臓器、ミニ腸を創り出すことに成功しました。
先天性の腸の疾患(Hirshprung病類縁疾患など)や炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎など)など出生後から成育期にかけて発症する腸の病気では治療に難渋する疾患が多いのですが、病気の発症機序が十分に理解されていない疾患も多く、今回のミニ腸は未分化細胞から生体に近似した腸が創り出せるため、腸の難病の研究や同時に創薬開発へ応用できるこれまでにない画期的な成果です。
通常、服用された薬は、吸収・代謝をまず腸管で受け、肝臓へと移ります。ミニ腸は創薬開発において腸での吸収・代謝を評価する画期的な手段となり、薬の生体腸管に対する副作用(下痢など)を評価することも期待されます。近年、生体機能を生体外で再現し応用する"生体機能チップ"(Human/Organ‐On‐A‐Chip)"の開発が国際的に進んでいる。しかし、機能は限定的でありかつ類似した方法での国際間の競争は激しいことが予想されます。一方、ミニ腸のように生体臓器に極めて近似した立体臓器用いた評価系はなく、高い臓器機能性を有することからも生体機能チップ分野でもオリジナル性の高い優位性が発揮できます。
今回の立体臓器ミニ腸の成果は、多能性幹細胞から複数種類の細胞からなる複雑な生体組織を試験管内で作製し組織移植するという「次々世代の再生医療」へも今後期待されます。

再生医療センター 生殖医療研究部について

国立成育医療研究センター再生医療センター生殖医療研究部では、再生医療について、幹細胞、ES細胞、iPS細胞を対象とし、その有効性、安全性を様々な観点から検証し、臨床応用の実現に向けた取り組みを行っています。

幹細胞には体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞等様々な種類があり、それぞれ異なる特徴を有しています。京都大学に次ぐ国内2施設目のヒトES細胞樹立機関としての認定を受け、現在までに7株のヒトES細胞(SEES1-7)を樹立しました。

また、病院部門と連携し、患者から同意を得た上で検体を提供していただき、その検体組織からの細胞の体性幹細胞の分離・培養技術を確立し、成育バイオリソースを構築しています。さらに、成育バイオリソースを利用したiPS細胞の作製、機能解析を実施しています。

国立成育医療研究センター再生医療センター生殖医療研究部では、こうした専門的・先端的な領域における知識の習得や研究に興味・関心を持つ意欲的な学生を広く迎え入れております。ご興味のある方は、下記の連絡先よりお電話で御連絡戴ければと思います。

生殖医療研究部(再生医療センター):03-5494-7047

発表論文情報

  • 著者: Hajime Uchida, Masakazu Machida, Takumi Miura, Tomoyuki Kawasaki, Takuya Okazaki, Kengo Sasaki, Seisuke Sakamoto, Noriaki Ohuchi, Mureo Kasahara, Akihiro Umezawa, Hidenori Akutsu.
  • 題名: A xenogeneic-free system generating functional human gut organoids from pluripotent stem cells
  • 掲載誌:JCI insight 2017, January 12
本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

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koho@ncchd.go.jp

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※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。

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