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0歳児の身長が伸びやすい季節は夏

スマートフォンアプリを使った子どもの成長、発達、生活習慣についての育児ビッグデータ解析により検証

国立成育医療研究センター研究所と株式会社ファーストアセント(所在地:東京都中央区、代表取締役:服部伴之、以下、「ファーストアセント」)による、スマートフォンアプリ『パパっと育児@赤ちゃん手帳』の育児ビッグデータを使った研究により、日本に住む0歳児は、冬に比べて夏に身長が増加しやすいことが明らかになりました。
これまで、保育園の児童において「夏に身長が伸びやすい」とした小規模研究はありましたが、今回の世界初となる育児ビッグデータを使った大規模データの解析により、0歳児においても成長に季節差があり、最も身長が増えやすい季節が夏であることが示されました。
この成果は2017年9月28日、第51回日本小児内分泌学会学術集会(開催地:大阪市)において、国立成育医療研究センター研究所 分子内分泌研究部 鳴海覚志 基礎内分泌研究室長 により発表されました。

プレスリリースのポイント

  • 日本に住む子どもたちの成長、発達、生活習慣の実態解明を目指した、世界的に前例のない育児ビッグデータ解析プロジェクトの第一弾の成果です。
  • 我が国では古くから「夏に身長が伸びやすい」と言われることがありしたが、0歳児の成長の季節差に関する研究は世界的にもありませんでした。育児ビッグデータを活用した今回の研究により、0歳児の成長にも季節が影響することが初めてわかりました。
  • どのようなメカニズムで成長の季節差が生じるのかは不明であり、未解決の課題です。今後は、住んでいる地域や外出頻度などの違いが季節差とどう関わっているかについて調査し、メカニズムに迫りたいと考えています。

背景・目的

子どもの健康や成長の様子を正しく知る上で、その実像を個人差も含めて把握することが重要です。しかし、子どもは短期間で劇的に成長、発達をとげる、という大人にはない特徴があります。例えば新生児と1歳児を比べると体重は約3倍、身長は約1.8倍の違いがあり、栄養、排泄、睡眠などほとんど全てが違っています。このように子どもたちは日々変化する存在であるため、断面的な研究では成長、発達、生活実態にまつわる高精度な情報を集めることは困難でした。国立成育医療研究センターとファーストアセントが共同で行う育児ビッグデータ解析プロジェクトでは、スマートフォンアプリ『パパっと育児@赤ちゃん手帳』に登録された育児ビッグデータを解析することにより、従来は難しかった日本の子どもたちの実像の解明に挑戦しています。
今回の研究で着目したのは、0歳児(生後0か月~12か月の)の成長の季節差についてです。日本は四季の移り変わりが明瞭であり、古来、詩や俳句に季節ごとの自然や感情が豊かに表現されてきました。野生動物の生活は季節の影響を大きく受け、一般的には、気温が低く日照時間の短い秋から冬にかけて不活発となり、気温が高くなり食料が増える春から夏にかけて成長、成熟、繁殖が活発になる、という季節性変動が見られます。一方のヒトは、野生動物ほど季節の影響を受けないと考えられます。しかし、我が国では古くから「夏の方が身長が伸びやすい」という言い伝えがあります。これまで保育園児に対する調査を通じて「最も増加する季節は夏」と結論した小規模な報告はありましたが、0歳児の成長の季節差の有無を、数千人規模の大規模データを使って検証するような研究は世界的に前例がありませんでした。

研究手法と成果

本共同研究では、医学研究への利用に関して同意の得られた1億件以上のライフログデータの中から、身長、体重に関わる約6,000名分(約40,000件)の0歳児のデータを解析しました。具体的には、2回の計測の間の身長・体重の「伸び」を求め、基準化した「伸び」の指標を月別・季節別に集計しました。
その結果、体重の「伸び」については季節による変動はありませんでしたが、身長は春から夏にかけて「伸び」が大きく、秋から冬にかけて小さくなることがわかりました。夏と冬の1か月での身長増加を比べると、平均して月に1.35 cm身長が増加する6か月児においてその差は0.13 cmであり、約10%の幅で変動することになります。
月別のデータをみると、身長の「伸び」の指標は7月に最大値をとった後、9月には既に低下する傾向があり、気候の変動パターンの中では気温や日長(昼の時間の長さ)と比べ日射量(太陽からの放射エネルギー)に近いパターンでした(下図)。
現時点でどのようなメカニズムで0歳児の成長速度に季節差が生じるかは不明ですが、日光照射によるなんらかの影響があると推測されます。

身長と体重の伸びの指標ごとの推移の画像

身長の伸びの指標ごとの推移の画像

今後の展望

育児ビッグデータ解析プロジェクトの第一弾となる今回の研究では、育児ビッグデータを使って古くからの「言い伝え」が検証できることを初めて明らかにできました。0歳児の成長の速さに季節差があるという事実は、ヒトにも野生生物としてのなごりが残っていることを意味するものかもしれません。あるいは、0歳児であっても夏の方が活動性が高く、成長が促されたためかもしれません。
このようなメカニズムについては、居住する地域による違い(例えば北海道と沖縄ではどう違うのか?)、外出する機会の違いなどについての追加調査を行い、検証してゆきたいと考えています。
子どもの成長、発達、生活習慣については、「謎」がまだまだたくさんあります。今後も、育児中のお父さん、お母さんと協力して進めるこの新しい研究方法を使って、新たな発見をしてゆきたいとプロジェクトチームは考えています。

分子内分泌研究部について

国立成育医療研究センター分子内分泌研究部では、胎児期から生殖年齢期までの内分泌疾患、成長障害、および先天奇形症候群を主な対象として、分子遺伝学的・臨床的解析を行っています。これにより、新たな疾患発症機序の解明、臨床像や予後の解明、現行の治療法の効果の判定、迅速かつ正確な診断法の確立、新しい治療法の開発を目指しています。

内分泌(ホルモン分泌)機構の異常は、成長障害、性分化疾患、性成熟異常、先天奇形症候群、生殖機能障害などさまざまな疾患を招きます。これらの疾患の発症機序には未解明の点が多く、有効な診断法や治療法が確立されていない疾患が多く存在します。分子内分泌研究部では、国内外の臨床医や研究者と連携し、内分泌疾患の臨床的および分子遺伝学的研究を行っています。

私たちの研究の目的は、新規疾患発症遺伝子の発見、疾患成立機序の解明、疾患重症化因子の解明、診断法や治療法の開発などを介して、よりよい医療の実現と健全な次世代の育成に貢献することです。

国立成育医療研究センター分子内分泌研究部では、こうした専門的・先端的な領域における知識の習得や研究に興味・関心を持つ意欲的な学生を広く迎え入れております。ご興味のある方は、下記の連絡先よりお電話で御連絡戴ければと思います。

国立成育医療研究センター(代表):03-3416-0181

本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

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koho@ncchd.go.jp

月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時


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