根本的なアレルギー疾患の発症予防法の解明
妊娠マウスに特殊な抗体を注射すると、生まれたマウスが長期間 IgE 抗体を作らなくなることを発見ー IgE 抗体の発見者である故・石坂公成博士の最後の研究(共同研究)ー
国立成育医療研究センター研究所の斎藤博久所長補佐、森田英明アレルギー研究室長らの研究グループは、1966年にIgE抗体を発見したことで有名な故・石坂公成博士(2018年7月逝去)らとの共同研究により妊娠マウスに抗IgE抗体を注射すると、生まれたマウスが長期間(マウスが成体となるまで)IgE抗体を作らなくなることを発見しました。この研究成果は、世界で最も権威のある臨床医学雑誌の一つで、米国アレルギー喘息免疫学会の公式機関誌であるJournal of Allergy and Clinical Immunology (impact factor 13.25)より原稿体のまま速報されます。
発表論文情報
- 著者:Hideaki Morita, MD, PhD, Masato Tamari, MD, PhD, Masako Fujiwara, Kenichiro Motomura, MD, PhD, Yasuhiko Koezuka, PhD, Go Ichien, PhD, Kenji Matsumoto, MD, PhD, Kimishige Ishizaka, MD, PhD, and Hirohisa Saito, MD, PhD
- 所属:Department of Allergy and Clinical Immunology, National Research Institute for Child Health & Development, Tokyo; Department of Pediatrics, the Jikei University School of Medicine, Tokyo; Hubit Genomix, Tokyo; and La Jolla Institute for Allergy and Immunology, La Jolla, CA.
- 題名:IgE-class-specific immunosuppression in offspring by administration of anti-IgE to pregnant mice
- 掲載誌:The Journal of Allergy and Clinical Immunology (Official Journal of American Association of Allergy, Asthma and Immunology)
プレスリリースのポイント
妊娠期のマウスに抗IgE抗体を投与すると、生まれてきた仔においてIgE抗体の産生のみを長期間抑制できることを明らかにしました。この方法は、根本的なアレルギー疾患の発症予防法になり得る可能性があります。背景
アレルギー疾患の患者数が増え続けており、現在では国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っていると言われています。日本のみならず、世界的にもアレルギー疾患患者が増加していることから、全世界において医療費を含む経済的損失は年々増え続けていると考えられます。一旦発症したアレルギー疾患を完全に治すことができる治療は存在しないため、アレルギー疾患の発症を抑制する方法の開発が期待されています。アレルギー疾患の大半は乳幼児期にアトピー性皮膚炎/湿疹発症し、各種抗原に対するIgE抗体の獲得が全ての引き金となって、最初に食物アレルギー、その後幼児期以降に気管支喘息、花粉症を発症する自然史をとることが知られている。したがって、乳児期の様々な抗原に対する感作を予防することがアレルギー疾患の発症予防に最も重要であると考えらえている。
そこで本研究では、根本的なアレルギー疾患の発症予防法、すなわち乳児期に抗原に対するIgE抗体を作らせない方法の開発を目指しました。
研究成果
妊娠中のマウスに、妊娠中期および妊娠後期に1回ずつ、抗IgE抗体あるいはControl抗体を投与し、生まれてきた仔マウスに対し卵抗原(Ovalbumin:OVA)をアジュバンドと共に投与し感作して、OVAに特異的なIgE抗体の産生能に対する効果を検討しました。その結果、妊娠中のマウスに抗IgE抗体を投与すると、仔マウスのOVA特異的IgE抗体の産生を抑制することが判明しました。更に、この抑制効果は、生後6週のマウスまで持続することが分かりました。一方で、OVA特異的IgG抗体の産生やOVA特異的なT細胞の反応には影響を与えないことも明らかになりました。
以上の結果から、妊娠中に母親に抗IgE抗体を投与すると、生まれてきた仔においてIgE抗体の産生のみを長期間抑制できることが明らかになりました(下図)。
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