エンタテインメントロボット"aibo"(アイボ)による介在療法が 慢性疾患を有する小児に与える癒し効果の検証を開始
国立成育医療研究センターこころの診療部児童・思春期リエゾン診療科の田中 恭子診療部長らの研究グループとソニー株式会社(以下、ソニー)は、ソニーの自律型エンタテインメントロボット"aibo"による小児医療現場における長期療養中の子どもに与える癒やし効果の検証を2018年12月より開始します。
国立成育医療研究センターは、小児・母性疾患を治療するナショナルセンターで、小児がん・臓器移植・慢性疾患などで長期入院を要する小児症例が多数あります。そして、これら長期入院を要する慢性疾患患者に対して、「家族」「医療従事者」「社会」等と繋ぐこと:リエゾン医療を目的とするリエゾン診療を実施してきました。
小児リエゾン精神医学領域では、認知行動療法(リラクセーションなど)、家族療法などの効果が報告されており、その実践効果が検証されてきました。他方、補完代替え療法としての動物介在療法は、動物と人との交流がもたらす健康、自立、生活の質改善を目的に、補助療法、非薬物療法あるいはケアの一環として臨床で行われています。その対象は、うつや統合失調症、PTSDなどの精神疾患患者、情緒や発達障害を伴う子どもであり、実施の利点として、対象者の情緒安定、自主性意欲の向上、社会性改善、自立適応の向上などの 効果があげられています。他方で動物介在による感染症のリスクや、外傷、咬傷などの副作用が懸念されることから、開放創や皮膚疾患、動物アレルギー、免疫力低下のある患者などには適用されていない現状があります。
近年ロボットを通じた子どもの心の発達心理学研究(とくに認知、意図、意思、心の理論)が進んでいます。生まれて数カ月の乳児は人に興味をもち、顔や身体の形の特長、動き方に注目し人との特別な関係性を築きます。このステップが対人コミュニケーション発達に大きく影響するとされてきましたが、近年、ロボットにおいても乳児との相互作用や人らしい形態などを付与すると、その視線を追従しようとすることが判明してきました。この結果は、ロボットがインタラクティブな存在であることを子どもに経験させることで、ロボットからの学習効果を引き出すことへの期待をもたらしています。とくにメンタライジング(人の心を推し量る課題)の発達は社会において重要であり、このような発達要素が人の動きをみて反応し行動するaiboの特長を通じて、子どものこころの発達過程を分析的に知ることができる可能性を探る、癒し効果の検証となります。
また医療におけるロボット技術応用に関する期待は高まっています。成人における手術支援ロボットや脳血管障害後の上下肢トレーニングロボットの適用に加え、高齢者を対象にしたメンタルコミットロボットによる癒し効果や、小児入院支援の定量的効果の研究などがパイロット的に示されています。この一方で、特に小児においてはロボット技術の汎用性が狭く、まだ十分には臨床応用されていない状況です。今回aiboを慢性疾患で長期入院を要する子どもたちへのリエゾン医療として導入し、子どもと家族の癒し効果を生物・心理・社会的手法を用いて質的・量的に検証します。
なお本研究で用いるaiboは研究に向けた特別仕様の機体となります。市販のaibo(ERS-1000)は、ユーザーの 同意のもと、撮影した写真をクラウド上に保存しスマートフォンやPCで閲覧する機能がありますが、本研究では被験者の個人情報の扱いに留意し、被験者の顔写真等の個人を特定可能なデータは成育医療研究センター内でのみ管理し、クラウド上への保存やソニー側では管理いたしません。またaiboが取得したセンサや認識結果等のデータは研究分担者が研究上の分析にのみ用います。なお実験に用いるaiboの通信機能(電波利用)は必要に応じて制限します。
研究手法
- 介入① 痛みを伴う医療処置の際に行うアイボによるディストラクション効果の検証
- 介入② 長期療養を要する子どもと家族に対する集団介在療法
- 介入③ 治療により隔離や行動制限などを要するケースに対する個別介在療法
- 介入④ 医療型短期滞在施設もみじの家に滞在する医療的ケア児における集団遊びがもたらす短期的効果の検討
効果測定の手法
生物学的指標
- ストレス
- 免疫能
- 自律神経系
- 情緒機能
心理学的指標
- 子どもの不安
- 子どもの抑うつ
- 子どもの生活の質・QOL
- 子どもの行動評価
社会的指標
- 家族関係
- ご家族のQOL
- 入院期間、合併症などの有無
子どもの対人コミュニケーションスキルの発達や愛着形成プロセスを分析的に知る可能性を探る、癒し効果の検証
aiboからみた子どもの視線追従、共同注意、模倣などを対人コミュニケースキルの発達を月齢別に分析する。また、非生命体であるaiboへの愛着形成のプロセスを参与観察による発話数と情動表出数(ポジティブとネガティブの2 方向)などストレス下にある子どもの対人コミュニケーション促進に必要な要素を抽出する。分析には、下記のようなaiboにより取得したデータも利用する。
- アイコンタクト⇒aiboによる顔認識結果のデータから分析
- 音声⇒aiboが音声認識した言葉の回数等から分析(録音は行わない)
- タッチング⇒(なでる、叩く、触る)などの種類や回数を頭部・背中センサの入力データから分析
今後の展望
2018年4月から5月に実施したパイロット・スタディの結果、子ども同士の社会的相互作用の促進(特に社会的な側面からみた自律性、配慮性など)や、表出が困難なケースにおける緊張緩和・リラクゼーション効果、孤立しがちな親子関係性への介入への期待、介在による三項関係の促進(共感性、共同注意力の促進、他者への参照など)、aiboとの定期的コミュニケーションによる情緒交流、気分転換、並びに癒しの効果が期待される結果が既に出つつあることなどが確認されました。
今後、心理社会的な面において支援を必要とする 現場へのロボットによる介在療法の導入の可能性を示すことで、動物療法の必要性を認識しながらも導入に至らない小児療養施設・児童福祉施設(児童相談所一時保護所など)であっても同様に、こどもらの孤独と不安に寄り添う癒しの効果がひろがることを期待しています。
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
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