先天性の重症大動脈弁狭窄症に対して国内初の胎児治療を実施 ~本臨床試験が進むことで、今後の治療法の確立に期待~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)周産期・母性診療センターの左合治彦副院長、小児内科系専門診療部の小野博副院長らのチームは、重篤な先天性心疾患である重症大動脈弁狭窄症※1の妊娠25週の胎児に対して、日本で初めての胎児治療を臨床試験として今年7月に実施しました。
大動脈弁狭窄症は、全身に血液を送る左心室の弁の間隔が狭くなってしまうもので、重症の場合、生後直後から心不全を引き起こし、生命の危険を伴う疾患です。今回行った胎児治療は「胎児大動脈弁形成術※2」で、妊婦さんのお腹から胎児の左心室まで針を刺してガイドワイヤーを通し、それに沿ってバルーンの付いたカテーテルを大動脈弁まで進めてバルーンを膨らませ、狭くなっている大動脈弁を広げる手術です。そうすることで、左心室の機能障害を防ぎ、左右の心室を使う血液の循環を成り立たせることを目的としています。
国内初となる胎児治療を行った患者さんは無事に出生され、生後の経過も良好です。本臨床試験が進むことにより、この術式が今後の治療法として確立されることが期待されています。
プレスリリース
- 先天性心疾患である重症大動脈弁狭窄症の胎児に対し、国内で初めてとなる胎児治療を行いました。
- 胎児の重症大動脈弁狭窄症は、大動脈の入り口(左心室の出口)が極端に狭いため、胎児期から左心室に大きな負担がかかり続け、左心室が正常に育たず、うまく働かなくなり、生命に危険が及びます。
- 今回行った胎児治療の「胎児大動脈弁形成術」は、胎児期に狭くなっている大動脈弁を広げ、左心室の形成・機能障害を防ぐことを目的としています。
- 胎児大動脈弁形成術は欧米を中心に実施されています。日本でも、これまで臨床試験として実施する準備を進めてきました。
- 胎児治療を行った胎児は無事出生し、生後の経過も良好です。
注釈
重症大動脈弁狭窄症
重症大動脈弁狭窄症は、胎児および新生児の生命にかかわる症状を引き起こす、発生頻度が出生1万人あたり3.5人という非常に稀な先天性心疾患です。左心室の出口が極端に狭いため左心室に過度な負担がかかり、心筋が著しく厚く、左心室内が小さくなる左心低形成症候群という病気や、心臓の働きが悪い状態となります。左心低形成症候群の根治術は、上下肢から戻ってくる血液を、心臓を通過せず、直接肺に戻るように血管をつなげるフォンタン手術です。医療の進歩によって治療成績は向上しましたが、フォンタン手術に到達する例は60~70%です。フォンタン手術後も、心臓の動きが悪くなったり不整脈がでたり、さまざまな合併症が出現する可能性があります。重症大動脈弁狭窄症は、胎児期に狭くなってしまっている大動脈弁を広げることで、左心低形成症候群への進行や、心機能の障害を防ぐことができると考えられています。
胎児大動脈弁形成術
2000年より米国のボストン小児病院を中心に出生後に左心室が正常に働くことができるように、妊娠中期の重症大動脈弁狭窄症に対する胎児治療が試みられてきました。
「胎児大動脈弁形成術」では、まず母体と胎児に麻酔をかけた後、超音波で観察しながら母親のお腹から針を刺し、子宮内の胎児の左心室内へ進めます。次に、ガイドワイヤーと呼ばれる細い針金を、狭くなっている大動脈弁(左心室の出口)に通過させ、それに沿ってバルーン付きのカテーテル進めます。最後に、大動脈弁でバルーンを膨らませて弁を広げる手術です。この手技が技術的に成功するのは約70~90%、このうち、左右の心室を使う血液の循環を成り立たせることができるのは30~50%と言われています。子宮内死亡も10%程度と報告されていますが、2014年のアメリカ心臓協会の提言ではベネフィットはリスクと同等かそれ以上とされ、治療を考慮してもいいとされています。
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