父親が家事・育児をする時間を確保するには、仕事関連時間を9.5時間以内にすることが必要
国立成育医療研究センター 研究所政策科学研究部の大塚美耶子研究員、竹原健二部長らは、同社会医学研究部の加藤承彦室長、国立保健医療科学院の越智真奈美主任研究官、北里大学の可知悠子講師らとともに、父親の「仕事のある日」における1日の生活時間について分析をおこないました。分析には、国の基幹統計調査として総務省が実施している社会生活基本調査の2016年の調査票Aのデータを用いました。その結果、政府が目標として定めた、「6歳未満の子どもをもつ男性の1日あたりの家事・育児時間を150分にすること」を達成するためには、父親の1日あたりの「仕事関連時間(仕事と通勤に要した時間)」を9.5時間未満に留める必要があることが分かりました。
本研究では、全国から無作為に抽出された対象者176,285人のデータのうち、①末子が未就学児、②夫婦と子どもの世帯、③就業している、といった条件を満たした父親について「仕事のある日」のデータ3,755人分を分析対象としています。その上で、対象者の1日の生活時間を「仕事関連時間」、「家事・育児関連時間」、「1次活動時間(睡眠や食事、入浴など身の回り用事)」、「休息・その他の時間(娯楽・自由時間など)」の4つのカテゴリーに分類しました。
1日24時間から、本研究のデータおよび先行研究から推計された「1次活動時間」10時間 と、「休息・その他の時間」の2時間を差し引いた場合、2.5時間(150分)の「家事・育児関連時間」を確保するためには「仕事関連時間」を9.5時間未満にする必要があることが明らかとなりました(図1)。
次に、「仕事関連時間」の時間別に、各カテゴリーの時間の分布を調べると、12時間以上の「仕事関連時間」を持つ父親の割合が全体の36%と最も多いこと(図2)、「仕事関連時間」が長いほど、「家事・育児関連時間」が短くなる傾向がみられました(表1)。
- 「仕事関連時間」仕事、通勤/通学、学業に費やされる時間
- 「一次活動」睡眠、食事、入浴、身の回りのことに費やす時間
- 「休憩・その他」通勤/通学を除く移動、テレビ/ラジオ/新聞/雑誌、休養/くつろぎ、学習/趣味/娯楽、スポーツなど、その他の時間
- 「家事・育児関連時間」家事、育児、介護、買い物に費やされる時間
※一次活動の内訳(睡眠や食事、身の回りのことに費やす時間)は、論文には記載していませんでしたが、プレスリリース用に追加しました。
本研究では、子どもを育てている父親が家事・育児をする時間を確保するためには、長時間労働をどこまで是正すればよいのか、その一つの具体的な時間の目安を示すことができたと考えられます。そしてこのデータが、働き方改革やリモートワークなどによる通勤時間の短縮など、家事・育児をするための時間を生み出すための社会的な制度・取り組みの導入において、役立つことが期待されます。
プレスリリースのポイント
- 父親が政府の目標である150分(2.5時間)の「家事・育児関連時間」を中・長期的に確保し続けるためには「仕事関連時間」を9.5時間未満にする必要があります。
- 未就学児の子どもをもつ父親の69%は「仕事関連時間」が10時間以上であり、12時間以上が36%と最多でした。12時間以上は、過労死ラインとされる「月おおむね80時間」の時間外労働を超える可能性が高くなっています。
- 父親の「家事・育児関連時間」を増やすためには、代わりに何か別の時間を減らすことの議論が同時に行われる必要がありますが、これまでそうした議論はほとんどおこなわれていません。
- 「仕事関連時間」が長時間を占めている父親は、代わりに減らせる時間的な余裕がすでにありません。
発表論文情報
- 題名:
- 末子が未就学児の子どもを持つ父親の労働日における生活時間
- 著者名:
- 大塚美耶子1), 越智真奈美2), 可知悠子3), 加藤承彦4), 新村美知4), 竹原健二1)
- 所属:
- 1) 国立成育医療研究センター 研究所 政策科学研究部
2) 国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部
3) 北里大学医学部公衆衛生学
4) 国立成育医療研究センター研究所社会医学研究部 - 掲載紙:
- 厚生の指標 第68巻15号 P24~30.2021.
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
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