日本初 新生児スクリーニングで発見し、生後早期からの酵素補充療法を開始した重度免疫不全症の赤ちゃんが無事退院
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)、免疫科の内山徹、岡井真史、小野寺雅史、小児がんセンターの坂口大俊、坂本淳らの臨床グループならびに新潟大学小児科今井千速らのグループは、原発性免疫不全症に対する新生児スクリーニングで発見した重度免疫不全症のアデノシン・デアミナーゼ(ADA)欠損症新生児に対し、症状が出現する前に酵素補充療法を行いました。その結果、患者免疫力を回復させ、重度の感染症に罹患させることなく無事に退院させることができました。なお、今回のように新生児スクリーニングで無症状のうちから酵素補充療法を開始した症例は国内で初めてで、今後は出生地の医療機関の外来で酵素補充療法を継続して経過を観察していく予定です。
重症複合免疫不全症(SCID)は生まれながらにして重要な免疫細胞のT細胞が作られず、生後まもなく肺炎、下痢、中耳炎などの感染症に罹患し、造血細胞移植などの根治療法を行わないと1年以上の生存が難しい疾患です。
ADAは細胞内で核酸代謝(DNA代謝)を行う酵素で、ADAが欠損することで細胞内に毒物が蓄積し、特にT細胞が障害を受けSCID様の症状を呈します。なお、ADA欠損症は他のSCIDとは異なりADAを補充すること(酵素補充療法)で体内の毒物が代謝され免疫能が回復することが知られています。、国内では当センターが中心となり治験を実施して2019年に酵素製剤として遺伝子組換えADA製剤(一般名:エラペグアデマーゼ)が承認されました。
SCIDに対するスクリーニングは「かかと」から微量の血液を採取し、T細胞の存在を表すTREC(T細胞受容体切除環状DNA)をPCRで測定するもので新生児にはほとんど負担はかかりません。なお、TRECによるスクリーニングは公的には行われておらず、一部の地域で有料で行われているのが現状です。
プレスリリースのポイント
- 重症複合免疫不全症(SCID)は、生後早期から重篤な感染症を発症し、造血幹細胞移植などの根治治療を行わないと生後1年以上の生存が難しい疾患です。
- SCIDの中でも、ADA欠損症は酵素補充療法による治療が可能で、国内でも当センターが中心となり酵素補充療法剤の治験を実施し、2019年にエラペグアデマーゼとして承認されました。
- 今回、新生児スクリーニングにより発見されたADA欠損症の赤ちゃんに対して、迅速に酵素補充療法を開始し、重症感染症なく免疫能の回復を認め、出生後6ヶ月で無事退院させることができました。
背景・目的
重症複合免疫不全症(SCID)は、T細胞の欠損及びB細胞の異常によって生後早期よりウイルス、真菌(カビ)、細菌による重度の感染症に罹患する疾患です。T細胞の欠損の原因となる遺伝子は、現在、20個程度が見つかっていますが、いずれの疾患においても根治的治療の造血細胞移植を行わないと生後1年以上の生存は望めません。
また、造血細胞移植を行う場合でもすでに重度の感染症に罹患していると移植による副作用が強くなり、その成績は極端に低下します。このため、欧米では、正常Tリンパ球が産生される際に生じる環状DNAのTREC(T細胞受容体切除サークル)を測定する新生児スクリーニングを実施しており、SCIDの移植による生存率は飛躍的に改善しています。一方、国内ではSCIDに対する公的スクリーニングは行っておらず、各自治体や関連団体、大学などが中心となり地域ごとで有料のスクリーニングが実施されているのが現状です。
SCIDの中でも唯一ADA欠損症は治療として酵素補充療法が存在し、造血細胞移植で最適なドナー(HLAが一致した血縁ドナー)が見つからない患者に対してはADA酵素補充療法を行うことで重度の感染症を防ぐことが可能です。このため、米国では1990年より治療薬として承認されていますが日本においては導入されていませんでした(欧州はcompassionate use 1 として使用可能)。そこで、2016年より当センターが中心となって遺伝子組換え型ADAの治験を開始し、2019年に帝人ファーマ社よりレブコビR?(一般名:エラペグアデマーゼ)として販売されました。酵素補充療法により患者はT細胞、B細胞の機能が回復し、重症感染症を予防することできますので移植による重度の副作用を軽減することができます。
1 生命に関わる疾患や身体障害を引き起こすおそれのある疾患を有する患者の救済を目的として、代替療法がない等の限定的状況において未承認薬の使用を認める制度。
今後の展望・発表者のコメント
今回、新生児スクリーニングによるSCID患者の発症前診断の重要性とADA欠損症患者に対するADA酵素補充療法の重要性・有効性を改めて確認しました。今後は、より多くのSCID患者に対しても同様の恩恵が受けれるよう、いち早い新生児スクリーニングの全国導入を希望する次第です(令和2年12月25日関係学会から厚生労働省に対して意見書を提出 )。なお、ADA欠損症に対してはより迅速に確定診断を行えるよう新たな診断法を開発中です。
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