重症アレルギー疾患の発症に繋がる新たな遺伝子変異の発見
国立成育医療研究センター消化器科の新井勝大診療部長・竹内一朗医師、免疫アレルギー感染研究部/アレルギーセンターの森田英明室長、ゲノム医療研究部の要匡部長、柳久美子研究員、好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループは、生後早期から治療に効果が見られないなどの重症アトピー性皮膚炎を含む複数のアレルギー疾患、好酸球性消化管疾患、高IgE血症、好酸球増多症を伴う患者において、STAT6遺伝子変異を発見し、その遺伝子変異によりSTAT6が異常に活性化していることが疾患の原因であることを世界で初めて明らかにしました。
一般的にアレルギー性疾患は、環境要因を含む様々な外的要因と、遺伝的素因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられています。その病態は、外的要因により活性化された細胞から産生されるインターロイキン(IL)-4/13がSTAT6を活性化することが中心であると考えられています。
一方で、近年の遺伝学および解析技術の発展にともない、生後早期から発症する疾患や重症な炎症を伴う疾患の中には、たった一つの遺伝子の異常で発症する「単一遺伝子疾患」が存在する可能性が示唆されています。しかし、これまでにSTAT6遺伝子を原因とする単一遺伝子疾患は報告されていません。今回、研究グループは、全エクソーム解析によってSTAT6遺伝子の新規遺伝子変異(p.Asp419Asn)を発見し、変異STAT6分子が外的要因がない状態でも活性化することで、治療に効果の見られない重症アレルギー疾患、および好酸球性消化管疾患を発症することを明らかにし、STAT6遺伝子を原因とする新たな単一遺伝子疾患を提唱しました。
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プレスリリースのポイント
- 治療に効果の見られない重症アトピー性皮膚炎を含む複数のアレルギー疾患と、好酸球性消化管疾患を有する症例に対して遺伝子解析を行い、アレルギー性の炎症を調節しているSTAT6の新規遺伝子変異(Asp419Asn)を発見しました。
- 発見された変異型STAT6では外的な刺激要因がない状態においても、活性が上昇することで、重症アレルギー疾患や好酸球性消化管疾患の発症につながっている可能性があります。
- 治療の効果が見られない重症アレルギー疾患患者の中には、本症例のようにSTAT6遺伝子変異を認める可能性があり、多因子疾患として知られるアレルギー疾患の中でも、治療抵抗性の重症な症例や、生後早期から発症する症例では、このような単一遺伝子疾患の可能性を考慮し、遺伝子解析を行っていくことが望まれます。
発表論文情報
論文タイトル:STAT6 gain-of-function variant exacerbates multiple allergic symptoms・多様なアレルギー症状の増悪に関与するSTAT6機能獲得型多型
雑誌名 Journal of Allergy and Clinical Immunology
著者:竹内一朗1,2), 柳久美子3), 高田修治4), 内山 徹5), 五十嵐ありさ3,6),
本村健一郎6), 林 優佳6), 長野直子6), 松岡 諒6), 杉山弘樹6), 義岡孝子7), 斎藤博久6), 河合利尚5), 宮地裕美子8), 犬塚祐介8), 松原洋一9), 大矢幸弘8), 清水俊明2),
松本健治6), 新井勝大1,8), 野村伊知郎8,10), 要 匡3), 森田英明6,8)
1) 国立成育医療研究センター消化器科・小児IBDセンター
2) 順天堂大学小児思春期発達・病態学
3) 国立成育医療研究センターゲノム医療研究部
4) 国立成育医療研究センターシステム発生・再生医学研究部
5) 国立成育医療研究センター免疫科
6) 国立成育医療研究センター免疫アレルギー・感染研究部
7) 国立成育医療研究センター病理診断部
8) 国立成育医療研究センターアレルギーセンター
9) 国立成育医療研究センター研究所
10) 国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患研究室
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