胎盤はウイルス感染に特化した防御機構を持つことが明らかに ~胎児の胎内ウイルス感染のメカニズム解明に向けて期待~
妊娠中の母親が感染することで胎児に発症する先天性ウイルス感染症(風疹ウイルス、ジカウイルス、サイトメガロウイルス感染症など)は、心臓の形態異常や精神発達の遅れなどをおこします。さらに新型コロナウイルスのような、母親が感染すると胎児が感染することは稀であるものの、胎盤の機能障害をおこし、流産や妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症を引き起こす可能性があるウイルスも知られています。今回の研究結果は、胎児や母体に生じる感染症による異常発生のメカニズムを明らかにし、予防・治療法の開発に寄与することが期待されます。
本研究成果は、アメリカの学術誌「Journal of Immunology」に4月3日に掲載されました。
<研究のイメージ図>胎児を育てる胎盤は、絨毛という微細な構造で形成されています。絨毛の表面には胎児由来の合胞体栄養膜細胞が存在し、この細胞が胎盤の主要な役割(ガス交換、栄養輸送、ホルモン産生等)を担っています(図左側)。本研究では、この合胞体栄養膜細胞の免疫学的特徴を明らかにしました(図中央、右側)。
プレスリリースのポイント
- 本研究では、ヒト胎盤にはウイルス防御に重要な自然免疫系受容体である二本鎖RNA受容体が発現しており、他の自然免疫系受容体の発現は認められないことを初めて見出しました。
- また二本鎖RNAにより、胎盤の細胞では抗ウイルス作用を持つサイトカインであるインターフェロン(IFN)が産生され、また細胞死が誘導されることを明らかにしました。こうしたIFN産生は血球細胞などでも認められますが、細胞死※3は胎盤に特徴的です。
- 以上の結果は、胎盤がウイルスに特化した防御機構を持っていることを示唆しています。
研究の概要・成果の要点
初めに、ヒト胎盤由来初代分化栄養膜細胞モデルの自然免疫系受容体の発現・機能スクリーニングを行いました。興味深いことに、同細胞にはウイルス感染に対する防御に重要な役割を果たす二本鎖RNA受容体が特異的に発現している一方、細菌など他の病原体を認識する受容体は発現していないことが明らかになりました。
次に、ヒト胎盤由来初代分化栄養膜細胞モデルの二本鎖RNA受容体が刺激された際に起こる遺伝子発現変化をマイクロアレイで網羅的に解析したところ、抗ウイルス作用および細胞死に関連した遺伝子群が変動していることがわかりました。そこで実際に細胞モデルを用いて検討を行い、二本鎖RNAはヒト胎盤において抗ウイルス作用を持つサイトカインであるインターフェロンの産生を誘導すること、またミトコンドリア経路を介した細胞死(アポトーシス)を誘導することを証明しました。
ウイルス感染に対する獲得免疫系の応答は、①B細胞からの抗体産生②T細胞によるウイルス感染細胞の特異的な細胞死誘導が、よく知られています。このうち、T細胞による特異的な細胞死誘導に必須の分子が発現していないために、胎盤の合胞体栄養膜細胞はウイルス感染時に細胞死を自ら誘導して防御を行う機構が備わっていると推察しています。
発表論文情報
英題:Comprehensive analysis of the expression and functions of pattern recognition receptors in differentiated cytotrophoblasts derived from term human placentas
邦題:ヒト胎盤由来初代分化栄養膜細胞のパターン認識受容体発現と機能解析
執筆者:本村健一郎1, 2、森田英明1、岡田直子1, 3、松田明生1、中江進4、 藤枝幹也5、左合治彦2、斎藤博久1、松本健治1
所属:
1) 国立成育医療研究センター免疫アレルギー・感染研究部
2) 国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター
3) 日本薬科大学薬学科
4) 広島大学大学院統合生命科学研究科
5) 高知大学医学部小児思春期医学講座
掲載誌:Journal of Immunology
掲載日:2023年4月3日
DOI:https://doi.org/10.4049/jimmunol.2300008
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