成人の繰り返す重症胃腸炎の原因に食物蛋白誘発性胃腸炎がある ~原因食材を食べて数時間後の繰り返す腹痛や下痢には注意が必要~
その結果、甲殻類アレルギーと考えられる成人 73 名の内、8 名(11%)が FPIES、53 名がFA と診断されました。これは、甲殻類を食べてなんらかのアレルギー症状を引き起こす成人の中に、FPIES が潜在的に相当数存在することを示唆しています。また、成人 FPIES はFA と比べて、腹部症状が出現するまでの時間と症状の持続時間が長い(中央値 20.8 時間)ことも分かりました。FPIES 患者は強い腹痛や腹部の張り・苦しさを伴う胃腸炎様発作を何度も経験しており、半数の FPIES 患者が発作中に死の恐怖を感じていました。それにもかかわらず、FPIES 患者の約 3 分の 1 しか病院で適切な診療を受けていなかったことも分
かりました。
本研究は成人の FPIES の臨床像を検討した日本初の報告であり、診断ガイドライン作成と救急医療における成人 FPIES の診断アルゴリズム策定に重要な役割を果たすことが期待されます。上記の成果は、国際的な学術誌「Annals of Allergy, Asthma & Immunology」誌に掲載されました。
プレスリリースのポイント
- 成人の繰り返す重症胃腸炎の原因として FPIES があり、甲殻類アレルギーの中で相当数存在すること(本研究では 73 名中 8 名、11%)が日本で初めて分かりました。原因が取り除かれるまで患者は多くの辛い重症胃腸炎様の発作を繰り返しています。
- 臨床的特徴としては、腹部症状が出るまでの時間と持続時間が中央値 20.8 時間と長く、強い腹痛や腹部の張り・苦しさを伴う発作が何度も起こることあげられます。小児のFPIES に見られるような、反復する嘔吐はあまり見られませんでした。
- FPIES は即時型アレルギーと違い、皮膚・呼吸器症状といった典型的なアレルギー症状がないため、食物アレルギーと気づかれないことが多くあり、本疾患の認知を広げ適切な診断につなげていく必要があります。
- 本研究で得られた成人 FPIES の臨床的特徴は、今後成人における FPIES の診断ガイドライン作成や救急医療における診断アルゴリズム策定に役立つと期待されます。
背景・目的
Food protein induced enterocolitis syndrome (FPIES)は反復する嘔吐や腹痛、下痢など消化器症状のみを呈する非 IgE 依存性食物アレルギーとされます(1)。小児にて近年大変注目されていますが、小児における内視鏡を含む各種検査が難しいこともあり、病態はほとんど未解明です。成人でも FPIES 例が潜在的に相当数存在し、原因として甲殻類が多いことがスペインやカナダなど海外で近年報告されました(1, 2)が、日本を含むアジアでは未報告です。
FPIES は皮膚の発疹や呼吸器症状といった消化器症状以外の典型的なアレルギー症状に乏しいため、なかなか食物アレルギーを疑われず、多くの患者が診断までに長期間、多数の発作を経験しているとされています(2-7)。日本においては成人 FPIES の疾患概念が普及しておらず、また専門として診察する部門も確立していません。そのため、成人 FPIES 患者が適切な診断・治療を受ける機会がないのが現状です。また、小児において FPIES の重症例は即時型食物アレルギー (Immediate-type food allergy: FA)と治療が全く異なることが知られており、これらの似たような疾患を適切に鑑別・診断することは救急医療の観点から極めて重要だと考えられます。
そこで私たちは成人甲殻類アレルギー患者における FPIES の有病率と現状の問題点を明らかにし、成人 FPIES と FA の臨床的な違いを評価することを目的に、日本初の疫学的研究を行いました。
研究概要
草加市立病院において甲殻類アレルギーと考えられる成人患者(73 名)に対し、下記 FPIESの診断基準や症状に関して電話インタビューを行いました。成人 FPIES の診断基準は海外からの報告と小児 FPIES の国際ガイドラインより決定しました。<FPIES の診断基準>
1:原因食材の摂取で腹部の症状のみ(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢症状)誘発される
2:原因食材摂取後、1~6 時間経過してから症状が出現する
3:原因食材除去により症状は完全に消失する
4:原因食材ないしは同一グループの食材摂取により 2 回以上発作を経験している
5:以前、原因食材を無症状で摂取できていた
上記 5 条件を満たすものを成人 FPIES 例と定義しました。
また本研究では症状の原因となる甲殻類の種類にも着目し、成人 FPIES の原因食材として伊勢海老やオマール海老などの大型の海老が多いこと、また患者の 62.5%はすべての甲殻類を除去しているわけではなく、何らかの甲殻類を摂取可能であることがわかりました。
発表論文情報
英題:Comparison of Adult Food-Protein-Induced Enterocolitis Syndrome to Crustaceans and Immediate-Type Food Allergy
邦題:成人の甲殻類に対する食物蛋白誘発性胃腸症と即時型食物アレルギーの比較について
執筆者:渡辺翔 1,5, 佐藤綾子 2, 内田仁 1, 楠田理奈 3, 鈴木啓子 3, 永嶋早織 3, 矢内常人 1, 松本健治 4,大矢幸弘 5, 野村伊知郎 3,5
1) 草加市立病院 消化器内科
2) 東京都立墨東病院 消化器内科
3) 国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患研究室
4) 国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部
5) 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:Annals of Allergy, Asthma & Immunology
DOI:https://doi.org/10.1016/j.anai.2023.06.007
- 本件に関する取材連絡先
-
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
koho@ncchd.go.jp
月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時
※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。