子どもと保護者の舌下免疫療法の治療遵守率は3年間で徐々に低下 ~治療遵守率に関連する要因も明らかに~
本研究では、1年のうち75%(274日)以上、薬を処方された人を「治療法を遵守できている」と定義し、その人達の全体に占める割合を「治療遵守率」としました。
SLITはアレルギー性鼻炎の有効な治療法ですが、3年間の継続が必要で、欧州の先行研究では治療遵守率や継続率が低いことが問題となっています。そこで、日本国内の子どもと保護者を対象に、3年間の治療遵守率の推移とその要因を分析しました。
その結果、SLITの治療遵守率は1年目で75.6%、3年目では53.9%となり、徐々に低下することが明らかになりました(図1)。これは欧州の先行研究と同等、あるいはそれ以上となっています。また、治療遵守率の傾向を製剤[2]ごとに分析した結果、シダキュア®︎、ミティキュア®︎、アシテア®︎の順に高い傾向がみられました。
年齢別の治療遵守率では、10歳未満の子どもや40歳以上の保護者の方が高く、10代の子どもや20代から30代の保護者の方が低い傾向にありました。(図2)
また、治療遵守率の向上に影響を与える要因として、SLITの夏季開始、経口抗ヒスタミン薬などの併用、医療機関の特性(公立病院・大学病院、耳鼻科や小児科)、親子での同時治療の実施が示されました。
本研究の成果は、アレルギー分野の学術誌AllergyにLetter論文として掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者らの意見であり、厚生労働省の見解ではありません。
[1] 舌下免疫療法(SLIT):アレルギー性鼻炎の症状と、生活の質を改善するための確立された治療法。スギやダニなどのアレルギー物質を原料としたエキスを舌下に含んで、少量から体を慣らすことで、アレルギー症状を和らげる。毎日の服用を、少なくとも3年間継続することが必要。
[2] ダニ用の錠剤型SLIT製剤(アシテア®、塩野義製薬株式会社; ミティキュア®、鳥居薬品株式会社)、スギ花粉用の錠剤型SLIT製剤(シダキュア®、鳥居薬品株式会社)。
プレスリリースのポイント
- 株式会社JMDCおよび、DeSCヘルスケアが提供するレセプト(診療報酬明細書)データベースを活用し、2015年~2021年の7年間にわたり舌下免疫療法(SLIT)を開始した、20歳未満の子どもと保護者約5万人分のデータを分析しました。
- 日本の子どもと保護者のSLITでは、最初の1年目の治療遵守率は75.6%、3年目は53.9%と徐々に低下していました。これは、欧州の先行研究と同等かそれ以上でした。
- 治療遵守率はシダキュア®︎や10歳未満の小児で高く、10代の小児や20代〜30代の保護者では低い傾向が見られました。
- 治療遵守率を向上させる要因として、夏季に治療を開始すること、経口抗ヒスタミン薬などの併用療法、医療機関の特性、親子での同時治療などが示されました。
今後の展望
本研究により、小児および保護者における3年間のSLITの治療遵守率と、それに影響を与える要因の一部が明らかになりました。今後は、治療遵守率に影響を与える要因の詳細なメカニズムや、SLITの臨床的・医療経済的な効果について、さらなる検証が必要であると考えています。
発表論文情報
題名(英語):Real-world compliance and determinants for sublingual allergen immunotherapy in children and parents
著者名:大久保祐輔1、桑原優2、佐藤さくら3、坂下雅文4、林優佳5、森田英明5,6
所属
1)国立成育医療研究センター社会医医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室(*責任著者)
2)愛媛大学大学院医学系研究科 地域小児・周産期学講座
3)国立病院機構相模原病院 臨床研究センター アレルギー性疾患研究部 食物アレルギー研究室
4)福井大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学/同大医学部附属病院医学研究支援センター
5)国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部
6)国立成育医療研究センター アレルギーセンター
掲載誌:Allergy
DOI:10.1111/all.15938
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