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遺伝子変異に起因した重症アレルギー疾患患者の特徴を明らかに 新たな疾患概念である"STAT6機能獲得型変異疾患"の診断に貢献

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵 理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー感染研究部/アレルギーセンターの森田英明室長、消化器科の新井勝大診療部長・竹内一朗医師、ゲノム医療研究部の要匡部長、柳久美子室長、好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループは、カナダ、米国、タイ、中国、トルコ、フランス、オランダの研究者らとともに、STAT6遺伝子※1の機能獲得型変異(遺伝子の変異によって、作られるタンパク質が多くなったりすること)が原因となる重症アレルギー疾患の病態メカニズム、臨床的特徴を明らかにしました。
当センターは、重症アレルギー疾患におけるSTAT6遺伝子の変異(p.Asp419Asn)を、2022年に全エクソーム解析※2によって発見※3し、STAT6遺伝子を原因とする新たな単一遺伝子疾患として提唱しました。同時期から世界中で、STAT6遺伝子の機能獲得型変異を有する患者が相次いで報告され、全世界で21症例の患者が存在することが明らかになっています。
本研究では、これら世界中の患者の特徴を解析し、生後早期に難治性アトピー性皮膚炎を発症すること、末梢血中の好酸球数増加や高IgE血症を認めること、また、高い確率で食物アレルギーや好酸球性消化管疾患を発症することなど、病態メカニズムや臨床的特徴を明らかにしました。
本件に関する論文は、科学雑誌『Trends in Immunology』に2024年1月17日付けで掲載されました。

※1 STAT6:細胞質内に存在するシグナル伝達物質で、インターロイキン(IL)-4などの刺激によってリン酸化されると,細胞核内へ移行して,アレルギー性の炎症を引き起こす遺伝子群の転写を活性化します。
※2 全エクソーム解析:遺伝子の中でタンパクになるエキソン配列のみを網羅的に解析する遺伝子解析の手法です。
※3 プレスリリース「重症アレルギー疾患の発症に繋がる新たな遺伝子変異の発見

STAT6機能獲得型変異疾患で報告された臨床徴候と頻度(一部抜粋)

プレスリリースのポイント

  • 新たな単一遺伝子疾患であるSTAT6機能獲得型変異疾患として世界各国から報告された21症例を集積して解析し、病態メカニズムや臨床的特徴を明らかにしました。
  • 本疾患では、生後早期に難治性のアトピー性疾患を発症し、食物アレルギーやアナフィラキシー、気管支喘息といった疾患を合併することが分かりました。好酸球性消化管疾患も高率で発症し、炎症の部位によって嘔吐、腹痛、下痢、血便など様々な症状が引き起こされます。本疾患の内視鏡所見は通常の好酸球性消化管疾患と比較してリンパ濾胞過形成が目立つという特徴がありました。
  • すべての症例で、末梢血好酸球数や血清IgE値が異常に高くなることが分かり、今後STAT6機能獲得型変異疾患を疑う重要な手がかりになります。
  • 報告された遺伝子変異はいずれもSTAT6の機能に関わる重要な部位のミスセンス変異※4であり、STAT6のリン酸化・脱リン酸化のバランスや、核内への移行性が変化するなど、様々なメカニズムでSTAT6の転写活性が異常に進んでしまうことが明らかにされました。
  • 一部の症例での分子標的治療薬の有効性や、悪性リンパ腫や脳動脈瘤の合併が報告されましたが、STAT6機能獲得型変異疾患の特徴として確立するためには今後のさらなる症例の集積が必要です。今回の研究によって明らかになった特徴を有する症例に対して、遺伝子解析を行うことで本疾患の診断につながる可能性があります。


※4 ミスセンス変異:遺伝子変異の種類のひとつで、一つのアミノ酸が本来とは別のアミノ酸に変化します。

研究内容・成果

今回の研究では、13家系・21例のSTAT6機能獲得型変異疾患の患者の特徴を解析しました。小児だけでなく成人例も含まれていましたが、共通して生後早期に難治性アトピー性皮膚炎を発症すること、末梢血中の好酸球数増加や高IgE血症を認めることが明らかとなりました。また、高い確率で食物アレルギーや好酸球性消化管疾患を発症することが明らかになりました(図1)。内視鏡所見では通常の好酸球性消化管疾患と比較して、消化管のリンパ濾胞過形成が目立って認められ、STAT6機能獲得型変異疾患に特徴として示唆されました。これらの特徴は、STAT6機能獲得型変異疾患を疑う重要な手がかりになると言えます。
STAT6遺伝子の機能獲得型変異として同定された11種類の遺伝子変異はいずれも、STAT6分子が正常に機能するために重要な部位のミスセンス変異であることが分かりました(図2)。たった一つのアミノ酸の変化ですが、STAT6分子の機能を調整するリン酸化・脱リン酸化のバランスや、核内への移行性が変化することで、STAT6分子の転写活性が異常に活性化し、結果として免疫細胞であるTh2細胞を中心とするアレルギー性の炎症などが引き起こされると考えられます。

STAT6遺伝子の機能獲得型変異として報告された遺伝子変異の種類と患者数

発表論文情報

タイトル:Human germline gain-of-function in STAT6: from severe allergic disease to lymphoma and beyond(STAT6機能獲得型変異:重症アレルギー疾患からリンパ腫とその先へ)
雑誌名:Trends in Immunology

著者:Mehul Sharma1, Narissara Suratannon2, Daniel Leung3, Safa Baris4, 竹内一朗5, Simran Samra1, 柳久美子6, Jaime S. Rosa Duque3, Mehdi Benamar7, Kate L. Del Bel1, Mana Momenilandi8, Vivien Béziat8,9, Jean-Laurent Casanova8,9,10, P. Martin van Hagen2,11,12, 新井勝大5,13, 野村伊知郎13,14, 要 匡6,13, Pantipa Chatchatee15, 森田英明13, 16, Talal A Chatila7, Yu Lung Lau,3 and Stuart E. Turvey1


所属先

  1. Department of Pediatrics, British Columbia Children's Hospital, The University of British Columbia.
  2. Center of Excellence for Allergy and Clinical Immunology, Division of Allergy, Immunology and Rheumatology, Department of Pediatrics, Faculty of Medicine, Chulalongkorn University.
  3. Department of Paediatrics and Adolescent Medicine, School of Clinical Medicine, The University of Hong Kong.
  4. Division of Pediatric Allergy and Immunology School of Medicine, Marmara University; Istanbul Jeffrey Modell Diagnostic and Research Center for Primary Immunodeficiencies; The Isil Berat Barlan Center for Translational Medicin.
  5. 国立成育医療研究センター消化器科・小児IBDセンター
  6. 国立成育医療研究センターゲノム医療研究部
  7. Division of Immunology, Boston Children's Hospital, Department of Pediatrics, Harvard Medical School.
  8. Laboratory of Human Genetics of Infectious Diseases, Necker Branch, INSERM, Necker Hospital for Sick Children. Imagine Institute, University of Paris-Cité.
  9. St. Giles Laboratory of Human Genetics of Infectious Diseases, Rockefeller Branch, The Rockefeller University.
  10. Howard Hughes Medical Institute, The Rockefeller University, New York. Department of Pediatrics, Necker Hospital for Sick Children.
  11. Department of Internal Medicine, Division of Clinical Immunology, Erasmus University Medical Center Rotterdam.
  12. epartment of Immunology, Erasmus University Medical Center Rotterdam.
  13. 国立成育医療研究センターアレルギーセンター
  14. 国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患研究室
  15. HAUS IAQ Research Unit, Department of Pediatrics, Faculty of Medicine, Chulalongkorn University and King Chulalongkorn Memorial Hospital.
  16. 国立成育医療研究センター免疫アレルギー・感染研究部


DOI:https://doi.org/10.1016/j.jaci.2022.12.802



本件に関する取材連絡先

国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

03-3416-0181(代表)

koho@ncchd.go.jp

月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時


※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。

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