日本の小児における食物タンパク誘発胃腸炎の実態が明らかに ~解析対象の半数以上が、鶏卵が原因。魚や貝も原因となる~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー・感染研究部の森田英明室長、筑波メディカルセンター病院小児科の林大輔専門科長、筑波大学医学医療系遺伝医学の野口恵美子教授らの研究グループは、日本の小児における食物タンパク誘発胃腸炎(FPIES[1](エフパイス))の実態を解明するため、13施設における多施設横断研究を行いました。
本研究では、食後1~4時間以内に遅延性の嘔吐を経験した小児225人を対象に、カルテデータの解析による原因食物や症状の聴取、国際的な診断基準との適合性、血液検査による特異的IgE抗体の抗体値などを調べました。
その結果、FPIESの原因食物として鶏卵(141人:58.0%)が最も多く、大豆(27人:11.1%)、小麦(27人:11.1%)、魚(16人:6.6%)、牛乳(15人:6.2%)、貝(9人:3.7%)と続きました。また、鶏卵のうち94.3%(133人)は卵黄が原因でした。
【表:FPIESの原因食物➀】
(※225人の患者のうち複数の抗原で症状があらわれた方もいるため対象人数は延べ243人)
FPIES は即時型アレルギーと違い、皮膚・呼吸器症状といった典型的なアレルギー症状がないため、食物アレルギーと気づかれないことが多くあります。また、日本では小児におけるFPIES患者の実態や、臨床的特徴についてまとめた大規模な研究はないため、本研究はFPIESの正確な診断につながることが期待されます。
本研究成果は、国際的な学術誌「Journal of Allergy and Clinical Immunology in practice」に2024年3月に掲載されました。
【表:FPIESの原因食物➀】
(※225人の患者のうち複数の抗原で症状があらわれた方もいるため対象人数は延べ243人)
[1] Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome(FPIES(エフパイス)):原因食物を食べた後、1~4時間後に嘔吐を繰り返したり、24時間以内に下痢を起こすなどの症状がでる疾患です。食べ物を食べてすぐに症状がでる即時型の食物アレルギーとは違い、じんましんや咳などの症状がないことが特徴です。近年、患者数の増加とともに注目されています。
プレスリリースのポイント
- FPIESの原因食物として、日本の小児では鶏卵(141人:58.0%)が最も多く、大豆(27人:11.1%)、小麦(27人:11.1%)、魚(16人:6.6%)、牛乳(15人:6.2%)、貝(9人:3.7%)と続いていました。
- 発症月齢の中央値は、鶏卵7.0ヶ月、大豆6.0ヶ月、小麦8.0ヶ月でしたが、牛乳は1.0ヶ月と他の食物と比較して早く発症していました。一方で、魚は36.0ヶ月、貝は48.0ヶ月と発症が遅い傾向にありました。
- 解析対象225人のうち、140人が国際的な診断基準を完全に満たしていました。一方で、79人は部分的にしか満たさなかったものの、症状が2回以上引き起こされていました。これは、国際的な診断基準では、軽症〜中等症のFPIESを適切には診断できない可能性を示唆しています。
- 完全に基準を満たした患者群では、血の気が引き、青ざめる(蒼白)、倦怠感、下痢の頻度が有意に高くなっていました。
研究の概要
目的:日本の小児における、FPIESの臨床的特徴を明らかにすること
実施期間:2020年3月~2022年2月
実施施設:アレルギー専門医が在籍する13施設[1]による多施設横断研究
解析対象者:食後1~4時間以内に遅延性の嘔吐を経験した0歳から15歳の225名の小児。
解析内容:カルテデータを基に、原因食物や発症年齢(FPIESの臨床的特徴)、国際的な診断基準との適合性などを解析。
[1] 多施設横断研究に参加した施設名:筑波メディカルセンター病院、東京都立小児総合医療センター、慶應義塾大学病院、あおぞら小児科、国立病院機構栃木医療センター、長野県立こども病院、慈恵医科大学葛飾医療センター、さいたま市立病院、埼玉市民医療センター、ハートライフ病院、那覇市立病院、国立成育医療研究センター、筑波大学
<FPIESの国際的な診断基準>
「主要基準」を満たした上で、「副基準」のうち3つ以上を満たした場合に、FPIESと診断されます。
主要基準:
原因食物を摂取後1〜4時間後に嘔吐があり、IgE依存性食物アレルギーで認められるような皮膚・呼吸器症状がない
副基準(9項目):
➀同じ食物を摂取した際に、繰り返す嘔吐が2回以上ある、②2つ以上の異なる食物に対して、摂取後1〜4時間後に繰り返す嘔吐がある、③極度の活力の低下、➃血の気が引き、青ざめる(蒼白)、⑤緊急受診の必要がある、⑥輸液をする必要がある、⑦食物摂取後24時間以内の下痢(通常5〜10時間後)、⑧血圧低下、⑨低体温
発表論文情報
論文タイトル:Differences in Characteristics Between Patients Who Met or Partly Met the Diagnostic Criteria for Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome (FPIES)
『FPIESの診断基準を満たす患者と、部分的にのみ満たす患者の違い』
雑誌名:Journal of Allergy and Clinical Immunology in practice
DOI:10.1016/j.jaip.2024.03.016
著者:林 大輔1,2、吉田 幸一3、明石 真之4、梶田 直樹3、立元 千帆5、石井 とも6、小池 由美7、堀向 健太8、木下 美沙子8、
濱畑 裕子9、西本 創10、崎原 徹裕11、新垣 洋平12、原 もなみ2、野口 恵美子2、森田 英明13,14
所属:
1 筑波メディカルセンター病院 小児科
2 筑波大学 医学医療系遺伝医学
3 東京都立小児総合医療センター アレルギー科
4 慶應義塾大学医学部 小児科
5 あおぞら小児科
6 国立病院機構栃木医療センター 小児科
7 長野県立こども病院 アレルギー科
8 慈恵医科大学葛飾医療センター小児科
9 さいたま市立病院 小児科
10 埼玉市民医療センター 小児科
11 ハートライフ病院 小児科
12 那覇市立病院 小児科
13 国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部
14 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
koho@ncchd.go.jp
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