酵素製剤の脳室内投与によるムコ多糖症II型の中枢神経症状に対する 新規治療法の開発が医師主導治験として開始
ムコ多糖症Ⅱ型患者の神経学的退行や知的障害などの中枢神経症状の治療に貢献
国立成育医療研究センターと大阪市立大学附属病院では、韓国の製薬企業Green Cross Corporationが開発した酵素製剤Idursulfase-βの脳内投与によるムコ多糖症II型の中枢神経症状に対する新規治療法の開発を医師主導治験として開始します。ムコ多糖症II型患者に対する酵素製剤の脳室内投与は、世界初の試みである。この新規治療法が成功すれば、この病気による中枢神経症状が回避でき、患者や家族にとって大きな福音となります。
プレスリリースのポイント
- ムコ多糖症II型の中枢神経症状に対する新規治療法として、欠損酵素を脳室内に直接投与することにより中枢神経症状の進行抑制を図る治療法について 医師主導治験を開始する。
- ムコ多糖症II型の標準的な治療は、欠損酵素の製剤を一週間に1回静脈内に投与する「酵素補充療法」である。しかし、既存の手法では脳全体に酵素を供給することができないため、ムコ多糖症II型の約7割に認める神経学的退行や知的障害への効果は期待できなかった。そのため、脳全体に酵素を供給できる治療法の開発が待たれていた。
- 酵素製剤の脳内投与により神経細胞やグリア細胞におけるムコ多糖(特にヘパラン硫酸)の蓄積が防止できれば、ムコ多糖症Ⅱ型患者の神経学的退行や知的障害などの中枢神経症状が回避できるようになる。
背景
ムコ多糖は、人間の体の主要な構成成分の一つです。ムコ多糖症II型は、ムコ多糖のうちデルマタン硫酸とヘパラン硫酸の分解に必要な酵素ですイズロネート-2-スルファターゼの先天的な欠損により全身の臓器に過剰なムコ多糖が沈着し、関節拘縮、心臓弁膜症、閉塞性呼吸障害などを呈する遺伝性疾患です。症状は加齢とともに重篤化しますが、生下時に症状は認められません。推定患者数は、全国で200人です。標準的な治療は、欠損酵素の製剤を一週間に1回静脈内に投与する、いわゆる「酵素補充療法」です。ムコ多糖症II型の酵素補充療法は約10年前から日本で可能となり、現在150名以上の患者がこの治療を受けています。
酵素補充療法により、関節拘縮、呼吸障害などの諸症状が改善し、患者のQOLは飛躍的に向上しました。しかし、ムコ多糖症II型の約7割に認める神経学的退行や知的障害への効果は現行の酵素補充療法では期待できません。それは、静脈内に投与された酵素が血液脳関門を通過できないため、神経細胞やグリア細胞におけるムコ多糖(特にヘパラン硫酸)の蓄積による細胞障害を回避できないためです。
この問題を解決する方法として、髄腔内に酵素を投与する臨床試験が米国を中心に実施され、一定の効果が得られています。
研究手法
わが国でムコ多糖症患者を最も多く診療しています国立成育医療研究センターと大阪市立大学附属病院では、約3年前から欠損酵素を脳室内に投与することにより中枢神経症状の進行抑制を図る医師主導治験を計画してきました。すでに、疾患モデルマウスを用いた薬効試験やサルを用いた安全性試験などの前臨床試験を終えており、本年8月下旬から医師主導治験として人への投与を開始する予定です。
脳の血管は極めて緻密で、血管内に存在する物質の中で限られた物質以外は、脳実質内に移行できない構造になっています。これが、血液脳関門です。酵素は、高分子化合物であり血液脳関門を通過できません。血管以外で脳全体に酵素を供給できる投与法としては、脳周囲に分布しています液性成分である脳脊髄液内に酵素を投与する方法が考えられます。脳脊髄液が存在するのは、脊髄周囲の脊髄腔と脳実質に隣接する脳室のいずれかです。我々は側脳室にリザーバーを留置し、側脳室に直接酵素製剤を投与する方法を考えました。
本治験では、治験対象者の頭部に植込み型脳脊髄液リザーバを装着し、患者の脳室内に酵素を28日おきに投与します。投与期間は約1年で、有効性はバイオマーカー及び発達評価試験を用いて評価します。対象者は4名を予定しています。
ムコ多糖症II型は患者数が極体に少ない超希少疾患です。しかも、個々の症例の重症度には大きな差があります。これは、科学的に有効性を評価できる臨床試験を計画することを困難にしています。本治験のプロトコール作成にあたっては、PMDAと数回の薬事戦略相談を実施し、特に臨床試験の評価項目について検討を重ねました。その結果、少数症例でも評価が可能と考えられるムコ多糖症II型の特異的なバイオマーカーを主要評価項目として選択することが可能となりました。
国立成育医療研究センター臨床検査部長で小児科専門医の奥山虎之医師が治験調整医師として本治験を主導します。本治験は、国立成育医療研究センターが、大阪市立大学附属病院、日本の某製薬企業、Green Cross Corporation(韓国)、Samsung Medical Center(韓国)と共同で実施します。
なお、本治験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)早期探索的・国際水準臨床研究事業による研究開発費の支援を受けて実施します。
脳の血管は極めて緻密で、血管内に存在する物質の中で限られた物質以外は、脳実質内に移行できない構造になっています。これが、血液脳関門です。酵素は、高分子化合物であり血液脳関門を通過できません。血管以外で脳全体に酵素を供給できる投与法としては、脳周囲に分布しています液性成分である脳脊髄液内に酵素を投与する方法が考えられます。脳脊髄液が存在するのは、脊髄周囲の脊髄腔と脳実質に隣接する脳室のいずれかです。我々は側脳室にリザーバーを留置し、側脳室に直接酵素製剤を投与する方法を考えました。
本治験では、治験対象者の頭部に植込み型脳脊髄液リザーバを装着し、患者の脳室内に酵素を28日おきに投与します。投与期間は約1年で、有効性はバイオマーカー及び発達評価試験を用いて評価します。対象者は4名を予定しています。
ムコ多糖症II型は患者数が極体に少ない超希少疾患です。しかも、個々の症例の重症度には大きな差があります。これは、科学的に有効性を評価できる臨床試験を計画することを困難にしています。本治験のプロトコール作成にあたっては、PMDAと数回の薬事戦略相談を実施し、特に臨床試験の評価項目について検討を重ねました。その結果、少数症例でも評価が可能と考えられるムコ多糖症II型の特異的なバイオマーカーを主要評価項目として選択することが可能となりました。
国立成育医療研究センター臨床検査部長で小児科専門医の奥山虎之医師が治験調整医師として本治験を主導します。本治験は、国立成育医療研究センターが、大阪市立大学附属病院、日本の某製薬企業、Green Cross Corporation(韓国)、Samsung Medical Center(韓国)と共同で実施します。
なお、本治験は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)早期探索的・国際水準臨床研究事業による研究開発費の支援を受けて実施します。
期待される効果
酵素製剤の脳内投与により神経細胞やグリア細胞におけるムコ多糖(特にヘパラン硫酸)の蓄積が防止できれば、ムコ多糖症Ⅱ型患者の神経学的退行や知的障害などの中枢神経症状が回避でき、この病気で悩む患者や家族にとって大きな福音となるでしょう。さらに、今後、ライソゾーム病をはじめとする超希少疾患の治療薬の開発は進むと考えられますが、バイオマーカーを主要評価項目することが認められると我が国での早期承認が推進されドラッグラグ解消にも大きく寄与できると期待されます。用語解説
- 本件に関する取材連絡先
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国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
03-3416-0181(代表)
koho@ncchd.go.jp
月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時
※医療関係者・報道関係者以外のお問い合わせは、受け付けておりません。