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ベックウィズ・ヴィーデマン症候群(Beckwith-Wiedemann症候群、BWS: OMIM 130650)

疾患概要

BWSは、主に11p15.5領域のインプリンティング異常症によって発症する過成長症候群で、胎児性腫瘍を高頻度に合併します。発症原因によって、遺伝性や腫瘍の種類、頻度が異なるため、積極的な遺伝学的検査が推奨されます。


発症頻度

発症頻度は出生10000人あたり約1例です(Choufani et al. Am. J. Med. Genet. Part C Semin. Med. Genet. 2010)。生殖補助医療(ART)によってBWSの発症リスクが増加し、ART出生児の約4000人あたり1例がBWSだったとの報告もあります(Halliday et al. Am J Hum Genet. 2004)。


臨床像と臨床診断基準

BWSは、巨舌、臍帯ヘルニア、片側肥大、高インスリン血性低血糖など多彩な臨床像を呈します。近年、表現型に基づくスコアリングシステムが提案されました(表1Brioude et al. Nat Rev Endocrinol. 2018)。これによると、スコア2点以上でBWSの分子遺伝学的解析が推奨されます。4点以上であればBWSの臨床診断になりますが、日本の小児慢性特定疾病の診断基準とは異なる点に注意が必要です。また、CDKN1C変異によるBWSでは片側肥大が通常みられません。


1. BWSクリニカルスコア

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胎児性腫瘍は、BWSの約8%に発生します(Mussa, et al. J. Pediatr. 2016)。全体的な腫瘍リスクは生後2年間で最も高く、頻度は、Wilms腫瘍(全腫瘍の52%)、肝芽腫(14%)、神経芽腫(10%)、横紋筋肉腫(5%)、副腎腫瘍(3%)ですが、BWS発症原因により腫瘍の種類・頻度が異なります(表2)。


2. BWSの遺伝学的原因別頻度と特徴
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そのほか、心合併症や腎合併症の報告があります。通常、知的発達は正常ですが、重症低血糖などの周産期合併症や、染色体構造異常のある場合は知的発達の遅れを伴う場合があります。


遺伝学的原因

11p15.5には2つのDMRがあり、それぞれ独立して機能しています。

テロメア側には、H19/IGF2:IG-DMRがあり、母由来アレルから発現するH19と父由来アレルから発現するIGF2を制御しています。H19の下流にはエンハンサーがあり、このエンハンサーは、H19/IGF2:IG-DMR が非メチル化状態でCTCFが結合していればH19に作用し、H19/IGF2:IG-DMR がメチル化状態でCTCFが結合していなければIGF2に作用します。

セントロメア側には、KCNQ1OT1:TSS-DMRがあり、父由来アレルから発現するKCNQ1OT1、母由来アレルから発現するCDKN1C、および部分的にインプリンティングされているKCNQ1を制御しています。非メチル化KCNQ1OT1:TSS-DMRKCNQ1OT1のプロモーターを伴い、KCNQ1OT1の転写産物はCDKN1Cの発現を抑制します(図1)。

BWSの主な分子学的原因は、エピ変異によるH19/IGF2:IG-DMRの高メチル化(BWS全体の頻度5%)、エピ変異によるKCNQ1OT1:TSS-DMRの低メチル化(50%)、11番染色体父性片親性ダイソミー(20%)、CDKN1Cの母性機能喪失変異(5%)、染色体構造異常(数%)に分けられますが、約20%はこれらの原因が認められず、臨床診断にとどまっています(表2)。

母由来アレルのH19/IGF2:IG-DMRがメチル化されると、H19の発現低下とIGF2の発現増加(両アレル発現)をきたします。IGF2はインスリン様成長因子をコードしていることからBWSの表現型となります。H19の発現低下による影響は分かっていません。次子あるいは次世代のBWS再発率は、一般集団と同様で、ほとんど無視しえます。また、H19/IGF2:IG-DMRの高メチル化によるBWS20%にOCT4/SOX2結合部位の点変異や微小欠失を認め、母から遺伝した場合は児がBWSになります(Higashimoto et al. Clin Genet. 2014)。

母由来アレルのKCNQ1OT1:TSS-DMRが非メチル化になると、KCNQ1OT1が両アレルから発現し、結果的にCDKN1Cの両アレル発現低下をきたします。CDKN1Cは細胞増殖を抑制する働きがありますので、その発現低下はBWSの表現型となります。次子あるいは次世代のBWS再発率は、一般集団と同様で、ほとんど無視しえます。

11番染色体父性片親性ダイソミーはH19/IGF2:IG-DMRの高メチル化、KCNQ1OT1:TSS-DMRの低メチル化を示し、IGF2過剰発現とCDKN1Cの発現低下をきたします。次子あるいは次世代のBWS再発率は、一般集団と同様で、ほとんど無視しえます。

CDKN1Cの母由来アレル機能喪失変異はメチル化の異常を伴いません。父由来アレルに機能喪失変異があってもBWSは発症しません。

染色体構造異常には、IGF2を含む父由来アレルの重複などがあります。

その他、エピ変異によるKCNQ1OT1:TSS-DMR低メチル化によるBWSの中には、複数遺伝子座のDMRにメチル化異常を示す、Multi-locus imprinting disturbanceMLID)症例が存在します。日本における症例数は30例程度と少なく、詳細は分かっていませんが、MLID症例の中には原因遺伝子の変異を有する症例が認められます(Eggermann et al. Nat Rev Dis Primers. 2023)。


1. BWS疾患責任領域における遺伝子制御機構

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遺伝子診断法および遺伝学的診断基準

マイクロアレイ染色体検査(CGH法)が保険適応ですが、上記の遺伝学原因のうち、11番染色体父性片親性アイソダイソミー(総論参照)と染色体構造異常によるBWSしか診断できません。非保険ですが、国立成育医療研究センター衛生検査センターで行っているメチル化特異的MLPA法であれば、H19/IGF2:IG-DMRKCNQ1OT1:TSS-DMRのメチル化状態とコピー数異常を同時に評価できるため、CDKN1C変異以外は診断可能です。CDKN1Cはかずさ遺伝子検査室でパネル解析を行っています(非保険)。図2は、AMED難治性疾患実用化研究事業:インプリンティング疾患の診療ガイドライン作成に向けたエビデンス創出研究班により提唱されたBWS遺伝子診断フローチャートになります。(図2


2. BWS遺伝子診断フローチャート

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管理・治療法

巨舌症

相対的に改善する例もありますが、約40%が舌縮小術を受けます(Kadouch et al. Int. J. Oral Maxillofac. Surg. 2012)。手術適応は摂食障害、持続的な流涎、構音障害、整容性などで通常1歳以降に検討します。重度の気道閉塞症例では、早期に外科的介入を行います(Brioude et al. Nat Rev Endocrinol. 2018)。


臍帯ヘルニア

ヘルニア根治術が行われます。手術中は低血糖と巨舌に伴う麻酔のリスクに注意を払う必要があります。


低血糖症

BWSに関連した新生児低血糖は、インスリンの過剰分泌によるもので、多くの場合一過性で数日以内に消失します。しかし、最大20%では生後1週間を超えて持続することがあり(Sotelo-Avila et al. J. Pediatr. 1980)、先天性高インスリン性低血糖症に準じて治療を行います。


片側肥大

小児期は、少なくとも年に一度は脚長差の有無を確認し、左右差のある場合は小児整形外科医への紹介を検討します。


胎児性腫瘍

海外の報告では、腫瘍合併頻度の少ないKCNQ1OT1:TSS-DMRの低メチル化によるBWSを除く全てのBWS患者に、7歳まで3ヶ月に1回の腹部超音波検査を推奨しています(Brioude et al. Nat Rev Endocrinol. 2018)。肝芽腫の早期発見にα-フェトプロテインの上昇が参考になる可能性があります。


心合併症

心肥大、動脈管開存症、心房中隔・心室中間欠損などの先天性心疾患がBWS13-20%でみられると報告されています(Brioude et al. Nat Rev Endocrinol. 2018)。心臓超音波検査によるモニタリングが必要であり、重篤な心疾患については手術が行われます。また、KCNQ1は先天性QT延長症候群の主要な原因遺伝子であり、ごく稀にKCNQ1OT1:TSS-DMRの低メチル化によるBWSとの合併がみられます(Urakawa et al. Eur J Med Genet. 2022)。


予後

BWSの長期転帰と晩期合併症に関する情報は少ないです。現在のところBWSにより成人発症の腫瘍リスクが増加するといった報告はありません。


小漫、指定難病ページ、各大学、関連学会へのリンク

国立成育医療研究センター 衛生検査センター

佐賀大学医学部分子生命科学講座 分子遺伝学・エピジェネティクス分野

小児慢性特定疾病情報センター ベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群

難病情報センターBeckwith-Wiedemann症候群(ベックウィズ-ヴィーデマン症候群)


コンセンサスガイドラインへのリンク

Brioude et al. Clinical and molecular diagnosis, screening and management of Beckwith-Wiedemann syndrome: an international consensus statement. Nature Reviews Endocrinology. 2018:14(4);229-249.


患者会

BWS親の会

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