鏡ー緒方症候群(KagamiーOgata症候群、KOS: OMIM 616222)
疾患概要
鏡-緒方症候群(KOS)は、14番染色体長腕遠位部(14q32.2)に領域を作っ存在するインプリンティング遺伝子の発現異常によって発症する先天奇形症候群です。羊水過多、新生児直後からの呼吸不全、哺乳不良、腹壁の異常を高頻度に合併し、ベル型・コートハンガー型の特徴的な小胸郭や、豊かな頬や長い人中などを特徴とする疾患特異的な顔貌を示します。確定診断は遺伝子診断となります。遺伝学的原因の違いによって、遺伝性が異なるため、積極的な遺伝学的検査が推奨されます。
発症頻度
本邦においてこれまで約70名のKOS患者が遺伝子診断されています。当研究室での遺伝子診断症例数から発生率は100万出生につき4-5名程度と推測されます。
臨床像と臨床診断基準
KOSはベル型、コートハンガー型と形容される小胸郭、妊娠中期より出現する羊水過多、胎盤過形成、腹直筋離開および臍帯ヘルニアといった腹壁の異常をほぼ全例に認め、豊かな頬、前額部突出、眼瞼裂狭小、平坦な鼻梁、小顎といった特徴的な顔貌を示します(表,図1)。そのほか、翼状頚、短頚、関節拘縮、側弯症、鼠径ヘルニアの合併を認めます。出生直後から呼吸困難が出現し人工呼吸管理、酸素投与が必要となる場合がほとんどです。嚥下障害による哺乳不良もほぼ全例に認められる数か月の経管栄養を必要とする場合が多くなっています。精神運動発達遅延はほぼ全例に認められていますが、普通級に通級する児もおり、発達遅延の程度に幅があることが明らかになってきました。また、肝芽腫の合併を複数の患者さんで認めています。
KOSの臨床診断基準はまだありません。ただ、疾患特異的なベル型・コートハンガー型の小胸郭や特徴的な顔貌は臨床診断のうえで重要な所見となります(図1)。ベル型の変形が成長とともに目立たなくなりますが、コートハンガー型の上向きの肋骨は年長児でも明らかで、診断的価値が高い所見です。
遺伝学的原因
KOSでは、父性発現遺伝子の過剰発現、母性発現遺伝子発現消失が生じます(図2)。父性発現遺伝子のRTL1の過剰発現がKOSの臨床像に最も関与すると予想されています。2024年までに当研究室で遺伝子解析したKOSの遺伝学的原因は、14番染色体父性片親性ダイソミー(UPD(14)pat) 67.6%、母親由来アレル14番染色体インプリンティング領域欠失17.7%、エピ変異14.7%でした。患者さんに14番染色体インプリンティング領域を含む欠失が同定され、患者さんのお母さんが欠失を持つ場合、次のお子さんにKOSが発症する割合は50%です。患者さんが、UPD(14)patを持つ場合は、次のお子さんがKOSを発症する確率は、両親が正常核型の場合、自然発症率と同様(ほぼ0%)です。もしご両親に14番染色体を含む均衡型転座がある場合はその限りではありません。正確な遺伝カウンセリングのためには、ご両親の染色体検査が必要です。患者さんがエピ変異の場合、次のお子さんにKOSが発症する確率は、エピ変異の発症機序が不明であることからエビデンスはありませんが、さまざまなインプリンティング異常症においてエピ変異の家族発症例を認めていないことから自然発症率と同様(ほぼ0%)と予想しています。
遺伝子診断法および遺伝学的診断基準
マイクロアレイ染色体検査(CGH法)はKOSの遺伝子検査として保険適応ですが、KOSの遺伝学的原因のうち、エピ変異とUPD(14)patの一部は同定できません。ごく稀な原因(DMRを含まない欠失など世界で数例報告あり)以外は、メチル化テストでKOSをスクリーニングできますので、メチル化テストをKOSのスクリーニングテストとしてお勧めします。国立成育医療研究センター衛生検査センターで行っているメチル化特異的MLPA法は、14番染色体インプリンティング領域のメチル化解析とコピー数解析を同時施行でき、KOSの遺伝子診断として保険収載されています。詳細は国立成育医療研究センター衛生検査センターのホームページ(https://www.ncchd.go.jp/scholar/research/section/clinical_labo/iden_kensa.html)を参考にしてください。
管理・治療法
治療は対症療法です。新生児期から乳児期にかけて問題となるのは呼吸障害と哺乳不良です。呼吸障害は、出生直後より出現し、ほとんどの症例で人工呼吸管理を必要とします。我々の調査では、人工呼吸管理は多くの患者さんで1か月程度必要としていましたが、数日で抜管できる症例から、1年以上人工呼吸管理を必要とする症例まで個人差がありました。哺乳不良はほぼ全員にみとめられました。我々の調査では経管栄養期間の中央値は7.5か月でしたので、早期からの摂食リハビリが推奨されます。臍帯ヘルニアを合併する症例は新生児期に手術が必要となります。
中長期的に問題となるのは、精神運動発達遅延です。発達はほぼ全例で遅れ、我々の調査では、運動発達の中央値は、頸定7カ月、座位の確立12か月、独歩確立25.5カ月で、年長児において、全例独歩が達成されていました。就学時はほぼ全例が特殊支援学級もしくは養護学校に進学していました。症例の集積にともない、正常発達の患者さんも認めるようになってきました。注意すべき合併症として肝芽腫が挙げられます。2015年の調査では、8.8%に肝芽腫を認めました。就学年齢までは3~6ヶ月ごとに腹部エコーや腫瘍マーカーの測定など、肝芽腫のスクリーニングを推奨します。KOS症例は腹直筋が離れていることから、乳幼児期は腹部膨満や、臍ヘルニアを認めることが多くなっています。腹筋が弱いことから、便秘となる症例が多く緩下剤の使用などが必要となることが多いです。新生児期に人工呼吸管理を必要とする症例が多くなっていますが、人工呼吸器から離脱できた症例で、呼吸器感染や呼吸不全により入退院を繰り返す症例は殆ど認めず、新生児期、乳児期の呼吸障害を乗り切ったのちの生命予後は良好と考えられます。
予後
2015年の調査ではKOSの生存率は73.5%でした。死亡例は全例4歳未満で、肝芽腫合併例は全例死亡しており、肝芽腫に対する定期的なスクリーニングの重要性を示唆します。KOS症例の長期予後についての報告はまとまったものはなく、2024年度に全国調査の予定です。
小漫、指定難病ページ、各大学、関連学会へのリンク
・難病情報センター
第14番染色体父親性ダイソミー症候群(鏡-緒方症候群)(指定難病200)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4688
GeneReviews®( GENEReviewsは、遺伝性疾患の症状や診断、遺伝学的検査、遺伝カウンセリングなどについて、専門家による解説が参照できる医療スタッフ向けの遺伝性疾患情報サイトです)
Kagami-Ogata Syndrome
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39446997/
コンセンサスガイドライン
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患者会
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