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この人に聞く Timothy Cain先生インタビュー

アジアオセアニア小児放射線学会(AOSPR)の会長、Timothy Cain先生(以下Tim先生)に、AOSPRの活動やアジアオセアニア地域の小児放射線医学の現状について、お話を伺いました。Tim先生は、オーストラリアの小児放射線科医です。PIJON(Pediatric Imaging Justification and Optimization Network)プロジェクトについても、示唆に富むアドバイスをいただきました。

(聞き手は国立成育医療研究センター 放射線診療部 宮嵜 治と東京大学医学部附属病院放射線科 前田 恵理子です。)

AOSPRの現状について

宮嵜:突然のお願いにもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます。

Tim先生:AOSPRを日本の皆さんに紹介できることは光栄です。

前田:ありがとうございます。AOSPRは2001年に始まったと記憶しています。現在加入している国や地域の数、また会員数について教えてください。

Tim先生:加盟数としては約30か国です。会員の数としてはおよそ400人です。

前田:各国の小児放射線科医の数を思うと、妥当な数字ですね。

Tim先生:会員には小児放射線科医のほかに、小児科医や小児外科医もいます。そして加盟国は、AOSPRを通じてWorld Federation of Pediatric Imaging(国際小児放射線連合会;WFPI)にも加盟しています。日本の働きはWFPIの活動にとっても大切です。

前田:AOSPRのカバー範囲はどこからどこまでですか?

Tim先生:東はオセアニア地区の各国、オーストラリアとニュージーランドと言えるでしょう。西はインド、パキスタンだと考えています。実際パキスタンからの参加者は今回もいます。

前田:日本医学放射線学会にはトルコからの放射線科医が結構いるのですが、中東とトルコはどうですか? Tim先生;中東は政治的にもかなり違いますし微妙な地域ですね。ヨーロッパも中東を自分たちの範囲に入れたがるのではないでしょうか。トルコはヨーロッパのほうが近いですが、確かに彼らはアジアの要素も持っていますね。

Tim先生へのインタビューの様子

インタビュー中のショット 複数個あるPIJONのロゴマークの候補を前に和やかにアイデアを披露中のTim先生


国際化の難しさ

前田:AOSPRはアジアとオセアニアの放射線学会だと伺っていたのに、いざ参加してみると北米やヨーロッパの先生方がたくさん来ていることに驚きました。

Tim先生:はい。欧米からの参加者の大部分は、今回大会長のIn-One Kimが招聘した演者と座長です。

宮嵜:国際化が進んでいますね。まるで環太平洋です。

Tim先生:そうですね。アジアオセアニア地区を客観的に議論するために、各地域からの参加者が増えることはウェルカムです。でもあくまでも環太平洋ではなくアジアオセアニア地区の学会ですので、どこかの地域に偏るのは望ましくないと思います。北米や欧州だけでなく、中南米やアフリカからも参加してほしいものですね。

前田:地域ごとの状況を意見交換するためのセッションがあったほうが良いのでしょうか?

Tim先生:いいえ、国と国とがあからさまにぶつかるのはよくないと思っています。医学的な議論に政治が持ち込まれるのもよくありません。日本と、中国と、韓国は例えば、何千年にもわたって融和と確執の歴史を繰り返していることは私もよく知っています。でも、あなた方は欧米とまた違う、同じような疾患と戦っているはずです。我々がこの地域で学会を開催する意義は、アジアオセアニア地域特有の疾患分布や感染症の課題を共有していることにあります。疾患ごとにセッションを分け、国境を越えて議論するのが一番生産的なはずです。

前田:そうですね。

Tim先生:特に結核は、我々の地域ではいまだに大きな問題になっていますね。結核については、AOSPRの中でインドのSodhi先生を中心としたグループが良い仕事をしてくれています。


AOSPRの今後の課題について

宮嵜:AOSPRは、アジアオセアニア地域の小児放射線科に携わる医師を集めて、毎年学会を開催しています。会員の交流の場となる学会を開催するほかに、各国の小児放射線被ばくの最適化に向けた活動はしていますか?

Tim先生:現状では、加盟国に対して調査を行ったり、被ばく低減のアクションを起こしたりするような活動はしていません。そこまでのマンパワーがないのが主な理由です。

前田:今後、予定はありますか?

Tim先生:今のところ、我々が被ばく低減のためのアクションを自分たちから起こす予定はありません。ただ、何らかの形で協力を求められたら、何ができるかは考えてみたいと思います。

前田:アジアオセアニア地域を本拠地としている学会には、ほかにはどのような領域のものがありますか?

Tim先生:成人の領域ではAOCR(Asia Oceanian Congress of Radiology)、アジア心臓血管放射線学会(Asian Society of Cardiovascular Imaging;ASCI)、アジア腹部放射線学会(Asian Congress of Abdominal Radiology;ACAR)などがありますが、各学会との連携はこれからの課題ですね。

宮嵜:放射線技師の学会もありますか?

Tim先生:知っている限りはありません。AOSPRには、放射線技師や看護師の参加がまだまだ少なく、やはりこれからの課題だと思います。

宮嵜: Image Gentlyとのコラボレーションの予定はありますか?

Tim先生:AOSPRはImage Gentlyのアライアンスメンバーですので、連携がないわけではありません。少し趣旨が外れますが、オーストラリアには放射線検査の情報提供サイトとしてInside Radiology(https://www.insideradiology.com.au/)というサイトがあります。でも、小児の被ばくに特化した情報提供をしているわけでもありません。AOSPRとしても、Image Gentlyのようなキャンペーンをする予定はないのでPIJONには期待しています。

Tim先生と前田 恵理子

インタビューを終えたあとの笑顔のTim先生と前田 恵理子


最後に

宮嵜:これから国立成育医療研究センターでPIJONプロジェクトを始めています。Image Gentlyに比べ規模は小さいのですが、PIJON立ち上げについて何かひとこと、メッセージをくだされば幸いです。

Tim先生:PIJONのようなプロジェクトは、社会にとって本当に重要なものです。まず、患者さんが医療について学び、自分が正しい治療を受けていることを確認する機会を与えてくれます。医療従事者にとってもこのようなプロジェクトは、患者さんに最良のアドバイスを与える知識をアップデートする場を提供してくれる、やはり非常に重要なものです。現代医療においては、正しい治療法を選択するうえで画像診断は基幹的な技術になっています。患者さんと医療従事者はどちらも、最良の結果を望むものですが、最良の結果を得るためには、それぞれが治療法の選択肢について、正しい知識を共有することが鍵になることが多いです。最近では画像診断の進歩に伴い、疾患によっては外科手術が他の治療法(血管内手術など)にとって代わる場面も多く、画像診断、なかでも放射線被ばくについて正しい知識を得ることの重要性が高まっています。日本の皆さんがPIJONのホームページを活用されることを強く推薦します。


編集後記

Tim先生には、AOSPRに到着してから飛び込みでインタビューを依頼し、快諾いただき実現しました。日本にいるとつい忘れがちなことですが、アジアオセアニア地域の人々は同じような体質、疾患分布や感染症を共有しており、生活習慣も互いに近い面があります。Tim先生から見たら、日・中・韓は「一つの地域」と映るでしょう。同じ疾患を共有しているからともに学会を開催する意義があるというお話は非常にうなずけるものです。PIJONは、アジアオセアニア地域にとっても、小児放射線被ばくに関してまとまった情報提供を行う初の試みになるかもしれません。プロジェクトを発展させ、いずれはグローバルレベルの情報提供と地域の連帯に貢献したいと抱負を抱きました。(前田)

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