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インフルエンザについて(医療関係者向け)
妊娠とインフルエンザ感染
妊娠中にインフルエンザに感染した場合、一般人口集団と比較して重度の合併症や入院にいたるリスクが高くなるとの複数の報告がされています(Am J Epidemiol 1998;148:1094-102、BJOG 2000;107:1282-9、MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2011 ; 60: 1193-6.)。
また、インフルエンザ感染と、流産率の増加 (Commun Dis Rep CDR Rev 1994; 4: 28-32)、死産率の増加 (Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2009 ;147 :115) との関連がみられたとの報告もあります。
妊娠を希望される女性や妊婦さんに対しては、流行シーズン前のワクチン接種等での予防がすすめられます。
妊娠中のインフルエンザワクチン・抗インフルエンザ薬
先天異常に関する基本知識
以下の点を必ず理解いただき、必要に応じて妊婦さんにもご説明ください。
一般の妊娠において、流産の自然発生率は15%前後、先天異常の自然発生率は2~3%と言われています。いいかえると、薬剤使用のない場合であっても100妊娠に3児で先天奇形がみられるということになります。
インフルエンザワクチン
現在、日本で使用されているインフルエンザワクチンは、不活化ワクチンです。
妊娠初期のインフルエンザワクチン接種に関する疫学研究には以下のようなものがあります。
- 妊娠4ヶ月までにインフルエンザ不活化ワクチン接種を受けた母親から生まれた650人の児において、大奇形、小奇形の発生率は増加しなかったと報告されています(Birth Defects and Drugs in Pregnancy, 1977)。
- アジュバント添加パンデミックインフルエンザA(H1N1)接種を妊娠第1三半期に受けた330人と、妊娠第2~3三半期に接種をうけた660人を比較して、先天奇形発生率の増加は認められませんでした(JAMA. 2012;308:165-174)。
- 国立成育医療研究センターで行った研究では妊娠中にインフルエンザHAワクチンを接種した182例(第1三半期 13例、第2三半期97例、第3三半期72例)の転帰において、特別な有害事象はみられませんでした(感染症誌. 2010; 84: 449-1453)。
- 妊婦にワクチンを接種することで、生後6か月までの児のインフルエンザ罹患率を減少させるとの報告もあります(N Engl J Med 2008; 359: 1555-1564, N Engl J Med 2014; 371: 918-931)。
欧米の専門機関は、インフルエンザシーズン中の妊婦へのインフルエンザワクチン接種を妊娠週数に関わらず推奨しています(Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Guidelines for Vaccinating Pregnant Women. Updated August 2016. Obstet Gynecol, 2018;131: e109-114)。 日本産婦人科診療ガイドラインでも、妊婦さんの原疾患なども考慮してワクチンを接種することが推奨されています。
抗インフルエンザウイルス薬
タミフル®(リン酸オセルタミビル)
妊娠と薬情報センターと虎の門病院の調査で、妊娠初期にオセルタミビルを使用した90人での妊娠結果は、3人が自然流産、1人が人工妊娠中絶、86人が生児を出産していました。そのうち先天異常がみられたのは1児でした(CMAJ. 2009 ;181:55-8.)。
日本産科婦人科学会の調査では、妊娠第1三半期にオセルタミビルに曝露した156児のうち先天異常がみられたのは2例でした。また、妊娠中いずれかの時期にオセルタミビルに曝露した619例の妊娠例で、早産率、低出生体重児の出産率などについて一般人口の発生率と差はみられませんでした(Am J Obstet Gynecol 2013;209:130.e1-9)。
ヨーロッパの多施設共同研究で妊娠第1三半期にノイラミニダーゼ(NA)阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)に曝露した1125児をNA阻害薬非曝露の672784児と比較したところ先天奇形発生リスクの増加はみられませんでした。オセルタミビル単独の曝露例においてもリスクの増加はみられませんでした。また、NA阻害薬曝露児で、低出生体重児の出産率、死産率等の出産率に関しては、リスクの低下がみられました(BMJ 2017; 356: j629)。
これまでの情報から、妊娠中のオセルタミビル使用が胎児に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。
リレンザ®(ザナミビル水和物)
ヨーロッパの多施設共同研究で妊娠第1三半期にノイラミニダーゼ(NA)阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)に曝露した1125児をNA阻害薬非曝露の672784児と比較して先天奇形発生リスクの増加はみられませんでした。また、NA阻害薬曝露児で、低出生体重児の出産率、死産率等の出産率に関しては、リスクの低下がみられました(BMJ 2017; 356: j629)。
ザナミビルは吸入で使用され局所で作用するため、母体の全身循環への移行量はごくわずかです。
これらのことから妊娠中に短期間(通常の使用であれば5日)ザナミビルを使用したとしても、胎児に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。
イナビル®(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の調査において、妊娠中にラニナミビルを使用した例が112例ありました。妊娠初期にラニナミビルに曝露した17児のうち1例が自然流産で、1例に先天異常がみられました。(Pharmacoepidemiol. Drug Saf. 2014; 23 :1084-1087) この報告では症例数が限られていますので、安全性を正確に評価することは困難です。
ラニナミビルは吸入で使用され局所で作用するため、母体の全身循環への移行量はごくわずかです。
これらのことから妊娠中にラニナミビルを単回使用したとしても、胎児に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。
なお、厚生労働省でも、妊娠中のインフルエンザワクチン、タミフル、リレンザの安全性について検討されています。
下記のリンクから資料をご覧ください。