代表: 03-3416-0181 / 予約センター(病院): 03-5494-7300
〈月~金曜日(祝祭日を除く)9時〜17時〉

  • アクセス・交通案内
  • 予約センター
  • MENU

この人に聞く Hyun Woo Goo先生インタビュー

Goo先生とインタビュアーの宮嵜 治・前田恵理子

左より宮嵜 治、Hyun Woo Goo先生、前田 恵理子
インタビューはアジアオセアニア小児放射線学会(韓国ソウル)期間中に行われた(2019年10月24日撮影)

Hyun Woo Goo先生(以下Goo先生)は、ソウル最大の病院、Asan Medical Centerの放射線科教授の一人で、循環器系を中心とする小児CTの分野で世界のリーディングポジションにある先生です。2019年10月現在、Goo先生は小児CT領域で82編もの論文を執筆されています。小児CTの線量管理はPIJON(Pediatric Imaging Justificationand and Optimization Network)の目的の本丸とも言うべき領域で、なかでも心臓CTは施設ごとの被ばく量の差が非常に大きいことで有名な検査です。アジアやお隣の韓国の現状について、Goo先生にインタビューしました。

(聞き手は国立成育医療研究センター 放射線診療部 宮嵜 治と東京大学医学部附属病院放射線科 前田 恵理子です。)


アジアの心臓CTのあゆみについて

前田:先生とはいつもアジア心臓血管放射線学会(以下ASCI;アスキー)で一緒に仕事をしています。今日はPIJONプロジェクトのためにお時間をとってくださりありがとうございます。

宮嵜:Goo先生、ありがとうございます。さっそくですが、アジアの小児心臓画像診断や、ASCIにおける先生の活動の歴史と現状について教えてください。

Goo先生:私が小児放射線科医になったのは2000年のことです。当時韓国には、小児CTを撮影するためのプロトコルがありませんでした。その後8年かけて国内の調査を進め、2008年に韓国放射線学会が出版する雑誌に、心臓、腹部、悪性腫瘍の精査に関して小児CTのプロトコルを出版しました。この論文は大変反響があり、2-3年の間に地方の医療機関まで浸透しました。その後、私は心臓CTの仕事に集中することに決めたのです。

前田:2008年と言えば、320列や2管球といったCTが発売されたばかりで、逐次近似再構成もまだ研究途上でしたね。当時は、成人の心臓CTですら成功率が高いとは言えなかったので、小児心臓CTに関する研究はまだまだ下火でした。

宮嵜:ASCIの活動が始まったのはいつですか?

Goo先生:ASCI自体は、医療事情や疾患特性が似ているアジア地域の心臓放射線科医の交流と育成を目指して2007年に発足しました。しかし、その中で小児をやっている放射線科医はごく一部でした。そこで私は、ごく少人数のネットワークを作り、ASCIの理事会に小児心臓の研究グループを作ることを提案し、了承されたのです。2012年には、小児先天性心疾患を扱う我々のグループのキックオフミーティングが行われました。創立メンバーは、各国から1-2名理事会に推薦してもらった小児放射線科医でした。外科医や小児科循環器医も迎え入れることにしました。

前田:なるほど、私は途中から参加したので創立時の様子がよくわかりました。

Goo先生:創立時は、とりあえず台湾のChai先生と、論文検索エンジンのPower of Scienceを用いて、大陸ごとの小児心臓CT・MRIの論文数を比較しました。すると、小児心臓CTの論文数が最も飛躍的に増えており、特にアジアからの発信が多いことがわかりました。そこで、我々はまずCTにフォーカスすることを決めました。欧米はMRI優位でしたが、人口の多いアジアはどこも患者さんの人数が多すぎてMRIでは検査しきれず、検査の多くをCTでこなしているのです。

前田:ASCIの小児先天性心疾患ミーティングでは、どの施設も驚くような患者数を提示してきますね。上海の病院で年間CT件数3000名とか。

Goo先生:その通りです。その後第2弾として、参加国ごとの小児心臓CT被ばくを調べる他施設共同研究を行いました。研究は2014年から始め、7か国11施設で調査を行いました。ASCI-REDCARDとして、2017年に米国Pediatric Radiology誌に掲載されました。

宮嵜:日本からは国立循環器病研究センターが参加していましたね。

前田:私がこのグループに入ったのは、ちょうど第2弾が終わる直前でした。

Goo先生:我々はASCIの学会が開催される都度、2-3時間のミーティングを行っていますが、それでは時間が足りず、メールベースの議論が多くなっています。その中で、マレーシアとインドネシアのメンバーは、国内ではまだ手探りで小児心臓CTを始めている状態で、ガイドラインが欲しいと言いだしたんですね。

前田:少し古いですが、アメリカの心臓CT学会(SCCT)が専門家パネルの意見書(expert consensus)として小児心臓CTの方法論をまとめていますが、ガイドラインというものはないですね。

Goo先生:アジアの国には、これから心臓CTを始めたい施設が沢山あります。彼らにとってSCCTの文書はあまり実用的でないですし、何よりこの分野は、使っているCTのメーカーが違うと話が通じないことが非常に多いのです。

宮嵜・前田:(深くうなずく)

Goo先生:だから、メーカーに関係ない総論と、メーカーごとの各論を記した、ユニークな形のガイドラインを作ることにしました。さらに、実績のある雑誌に掲載するために、インパクトファクターが高い韓国の放射線雑誌(Korean Journal of Radiology;KJR)に招待論文という形で掲載してもらいました。

前田:今、ASCIのガイドラインはパート2を書いているところです。パート2は先天性心疾患におけるCTの適応を論じています。


小児心臓CTの今後

宮嵜:小児心臓CTの利用は世界中で増えているといわれています。今後の展望を教えてください。

Goo先生:欧米でも心臓CTはMRIに急速にとってかわられています。やはり被ばくが非常に少なくなったため、鎮静のリスクのほうが高くなってしまったことがあげられます。

前田:よくわかります。MRIをとるには長時間の深い鎮静が必要ですが、CTはあっという間に終わるので、東大でもほぼ鎮静なしで撮っています。

Goo先生:そこで、欧米でも小児心臓CTを勉強したいとの機運が高まり、北米小児放射線学会が今年から小児心臓CTの研修コースを設け始めました。北米心臓血管放射線学会でも、小児心臓CTのトレーニングコースを開催しています。私も講師として呼ばれています。

宮嵜:ASCIと北米の小児放射線学会や心臓血管放射線学会はコラボレーションしないのですか?

Goo先生:小児放射線学会とはまだ予定がないです。心臓血管放射線学会とは個々に提携できそうです。

宮嵜:小児心臓CTの世界的なガイドラインがない中、ASCIのガイドラインが出版された意義は大きいと思います。今後、ガイドラインをどのように広めて、他の組織とどう連携するかアイディアはありますか?

Goo先生:そうですね、まずは小児先天性心疾患グループの全員が国内外に広めていくべきだと思います。

Goo先生へのインタビューの様子

インタビュー中の前田 恵理子とAsan Medical Center 放射線科教授のHyun Woo Goo先生


韓国の診断参考レベル

宮嵜:韓国には診断参考レベル(National DRL)はありますか?

Goo先生:はい、2012年に韓国食品薬品局(FDA)により定められたものが最新です。当時は、政府も医療放射線被ばくに対する関心がとても高かったので、DRLをまとめることができました。小児領域に関しては、私が2009年に小児心臓CTの、2012年に小児CT全体の最適化に関する論文を発表しました。

宮嵜:日本の診断参考レベルが発表されたのが2015年でしたから、それより早かったのですね。どのようなプロセスを経て設定していますか?

Goo先生:ほぼすべての国立大学・国立病院を対象にした調査を行っています。2009年には小児胸部単純写真についての調査を行いました。2012年にはCTの調査を行いました。

宮嵜:そのCTの調査を行ったのは誰ですか?

Goo先生:韓国FDAの研究者と、国に召集された放射線科医と放射線技師です。私は入っていません。私は2013年に韓国の3つの施設を対象に、小児胸部CTの被ばく線量に関する多施設共同研究を行いました。3病院の線量は0.5―2.5 ミリシーベルトに集中していました。

前田:3施設とはかなり少ないような気がしますが・・・

Goo先生:日本、特に東京と異なり、ソウルには5つしか大きい病院がないのですよ。そのなかで特に大きい3つだけを対象にしているので、信頼性は高いと思います。


韓国の線量管理事情

宮嵜:韓国の学会等のなかで、放射線防護や放射線の安全性について啓蒙的な役割を担う組織はありますか?

Goo先生:RANK-QS という組織があり、政府からも人を招待して毎月専門家のミーティングを行っています。内容は、品質管理や、グループ内の教育ですね。メンバーであっても参加は任意です。米国Image Gentlyのようなキャンペーンは行っていません。

前田:韓国ではDose optimizationとjustificationにおいて放射線科医と技師がそれぞれどのよう役割を担うことが多いですか?

Goo先生:私が所属するAsan Medical Centerは2705床の巨大病院で(注:国立成育医療研究センターは490床、東京大学医学部附属病院は1262床)、毎日約12000人(Asan Medical Centerホームページより)の外来患者が受診します。CTは20台以上あります。増えすぎてしまい数えたくないのですがもっとあるかもしれません(笑)。放射線科にかかわるスタッフは400名を超し、放射線科医だけで132名います。

宮嵜・前田:桁違い!!

Goo先生:我々は韓国最大で、もっとも利益も大きい病院です。病院だけでなく、レストラン部門なんかもかなり儲けていますね。放射線科もMRIを含めて24時間営業です。その代わり、患者さんにとっては大変なこともあって、入院患者さんのMRIは夜中の2時にたたき起こして撮影したりしています。

宮嵜:夜中の2時!

Goo先生:こんな巨大病院ですが、2016年からはすべての検査についてプロトコルを何らかの形で管理しようという試みが始まりました。胸部単純CTなど、単純な検査は診療放射線技師がプロトコルを決めます。複雑な検査に関しては、以前調査したのですが技師に任せると間違いが多すぎるため、専門研修医が全て決めています。小児検査に関しては、私がすべて見ることにしています。

宮嵜:国立成育医療研究センターでは、プロトコル決めは研修医と若手放射線科医の仕事です。

前田:東大もそうですね。

宮嵜:あと、依頼状を見ながら、同じ検査の中で複数回同じ部位を撮影するなど不適切なものについては、彼らが依頼医に断りやプロトコル変更の連絡を入れています。それだけ数があると依頼状をチェックするのも大変だと思いますが、不適切な検査を断ることはありますか?

Goo先生:すべての依頼された検査を断らずにやってしまっていますね。

前田:きれいな3D再構成を作るのも大変な負担ですが、韓国ではコストが取れるのですか?

Goo先生:はい。3D再構成料の料金を取ることができます。

前田:いいなあ。(日本では3D再構成を行ってもコストが取れないため人件費の持ち出しになる)

宮嵜:韓国には小児放射線科医が沢山いるように見えますが、実際何人くらいいますか?

Goo先生:韓国小児放射線学会の登録数は71名です。ちゃんと活動しているメンバーは30-40名ではないでしょうか。


韓国のCT被ばくの問題点

前田:韓国のCT被ばくの現状と問題点について教えてください。

Goo先生:じつは、医療被ばくに関してはほとんどないのです。その代わりというか、ここ1-2年、まったく別の問題が起きています。マットレス問題ですね。ホルミシス効果をうたった、放射性同位元素を含む家庭用のベッドマットレスが一時期非常に売れたのですが、それが自然放射線をかなり超えた放射線量になっているということで、大問題になっています。

前田:全く予想しない方向の問題でした。でも、健常者だから大変ですね。

Goo先生:だから、韓国FDAはそっちにかかりきりになり、もはやDRLや医療被ばくにあまり関心を持たなくなっています。あと、若い非正規労働者が工業の非破壊検査で大量の放射線被ばくをしている問題が、世代間対立を引き起こして問題になっています。


おわりに

Goo先生は終始にこやかに、アジアの心臓CTの歴史と現状、そして世界の心臓CTの展望まで、詳細に話してくださりました。話が弾んで、予定を大幅に超える2時間強の取材となってしまいましたが、隣国の小児放射線医療の現状がよくわかるインタビューとなりました。

日本には中規模~大規模の病院がいくつもありますが、韓国はとことん集約化が進んでおり、病院の規模が大きいことは以前から聞いていました。それにしても、2700床、CT20台、放射線科スタッフ400人など、桁違いですね。本当に驚きました。

前田は今後もASCIにてGoo先生と様々なプロジェクトを進めていく予定ですので、順次ご紹介できれば良いなと思います。Goo先生、どうもありがとうございました。(前田)

<訃報>

これまで数々の世界的権威の先生方にインタビューを行い、「お楽しみ」の原稿を執筆して下さっていた東京大学医学部附属病院放射線科・前田恵理子先生がご病気のため急逝されました。
この場をかりて、謹んでお悔やみを申し上げます。今後も前田先生の御意思を継ぎPIJONの活動を継続し、内容の充実を図っていきたいと存じます(PIJON代表 宮嵜 治)。

ページトップへ戻る