図1:軟骨無形成症の単純X線撮影(生後6日目)
胎児期に四肢短縮のため骨系統疾患が疑われ、生後6日目に全身骨単純X線撮影が行われた(図2、3と同一症例)
- トップ
- > 国立成育医療研究センターについて
- > 主な取り組み
- > こどもの医療被ばくを考えるサイト PIJON
- > 小児画像検査について
- > 胎児CT検査
胎児CT検査
はじめに
通常、妊婦さんに医療被ばくを被るX線撮影は行いません。ごくまれに母体の虫垂炎、腹部鈍的外傷などの理由により妊婦に対しCTを行うことはあり得ます。一方、胎児期に骨系統疾患が疑われた場合に、出生前診断の目的で胎児骨格CTを行うことがあります。このPIJONのサイトでは骨系統疾患とは何か、画像診断の進め方、出生前診断の意義、被ばく線量の診断参考レベル、推奨される撮影プロトコルなど解説します。
骨系統疾患とは何か?
骨系統疾患とは、骨、軟骨、靭帯などの骨格を形成する部位の成長や発達の障害によって、骨格形成やその維持に異常をきたす疾患の総称です。骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta)や軟骨無形成症(Achondroplasia)などが代表的な疾患であり、その殆どが先天性の遺伝性疾患であることが知られています。
骨系統疾患には国際的な分類(Nosology and classification of genetic skeletal disorders)がなされています。最新の改訂版(第10版2019年)では現在、461疾患42の疾患グループ、437の遺伝子異常に分類されており非常に種類が多く、実際の疾患数は、約1000近いと考えられています1)。
各々の疾患の頻度は低いですが、骨系統疾患全体としての集団における頻度はかなり高く、1000人に1人以上いるのではないかと考えられています2)。また残念なことに骨系統疾患の大部分は、有効な診断方法や治療法がない難病です。このため罹患患者さんは成長障害や、関節の機能不全、神経の障害などにより運動機能障害など、様々な障害を来たします。
骨系統疾患の画像診断の進め方
通常の出生後の診断には、図1のような単純Ⅹ線撮影15枚程度の全身骨撮影の1セットが必要になります。近年多くの疾患の画像診断は、超音波、CT、MRI、核医学などの最新の撮影方法により行われることと比較し、極めて特異な疾患領域と思われます。この特徴が出生前に胎児CTを用いる理由であると考えます。
図1は生後6日目で撮影された12枚の全身骨X線撮影のシリーズです。前額部の突出、方形型の骨盤骨、水平臼蓋、臼蓋内側のtrident pelvis所見、長管骨の短縮、長管骨骨幹端の杯状変形、flaring, 両手手指のtrident handの所化から本例は軟骨無形成症(achondroplasia)と診断されます。
骨系統疾患の出生前診断
近年、胎児超音波検査(以下US)による様々な疾患の出生前診断能が向上しました。胎児骨系統疾患も、胎児のスクリーニング検査によって異常が指摘されることが胎児CT施行の根拠となります。
最も頻度の高い異常所見は、大腿骨長の短縮です。しかしUSは画像の特徴上、骨の診断には不向きで、診断に苦慮する場合が多く確定診断に至らないケースが多いです。
またUSと同様にMRIは骨格の変形、微妙な異常所見の指摘には不向きであり、胎児MRIによる骨系統疾患の出生前診断は困難です。
なぜ胎児期にCT診断が有用なのか?4つの利点
前項の胎児USの記載と比較し、胎児CTには以下の4つの利点が挙げられます。
- 頭頂部から足根骨まで全身の骨格が観察可能である。
- 日常行われているCT画像の再構成テクニックをフルに活用できる
- 過去の膨大なX線診断学の知識と経験をそのままCT読影に利用できる
- 短時間に簡便に撮影できる
なぜ胎児期に診断が必要なのか?想定される3つの周産期の経過
以前は胎児期にUSで骨系統疾患が疑われた場合、子どもの母親、パートナー、その両親および産科医師や医療従事者は、生まれてくる子どもの診断名も分からず、重症度も判定できず、出産方法や出生直後の医療介入の準備などができず大変苦労していました。
胎児CTを出生前診断に行うことにより、以下の周産期管理の指針が明確となります。
- 比較的軽症で経腟分娩が可能。出生後NICU入院管理は不要と予測
- 中等度に分類され、帝王切開での出産やNICU入院、人工呼吸器管理等を想定できる
- 重度の骨系統疾患のため生命の維持が懸念される。また看取り医療も考慮に入る
いつ胎児CTを行うか?
妊娠28週以降の妊娠3期(third trimester)以降を推奨します。
理由:国際放射線防護委員会(ICRP)は妊娠1期、2期の時期の被ばく影響について中枢神経障害の可能性を挙げており、3期は胎児の被ばくの影響が最も少ない時期であるためです。
また3期以前の胎児は骨格が小さく、微小な所見の描出や読影が困難であるためです。しかし、胎児USで明らかに重篤な骨系統疾患が疑われている場合は、妊娠22週未満に行うこともあります。
日本の胎児CT撮影:被ばく線量の診断参考レベル
2015年全国胎児CT検査の被ばく線量に関する調査結果(75パーセンタイル、3/4値)3)
Diagnostic reference level (DRL) |
CTDIvol | DLP | スキャン範囲 |
---|---|---|---|
5mGy | 176mGycm | 341mm |
胎児CT検査の推奨プロトコル
1. 線量設定
2015年のCTDIvol のDRLが5mGy 、中央値が3mGyであることより3)、
推奨される被ばく線量設定:CTDIvol = 3mGy(5mGy以下)逐次近似法の併用下
管電流設定はこのCTDIvolに設定されるよう、管電圧やその他の設定と合わせて行います。管電圧については80kV、100kV、120kVの設定がありますが、いずれが最善かという推奨はなく、管電圧が低いほうが被ばく線量は低い傾向になります。
2. 撮影後の画像処理
画像再構成については、母体の骨格と軟部組織はトリミングで消去し、胎児のみを表示します。骨格の3D表示はVR画像(図2a)、MIP画像(図2b)を両方作成します。胎児は通常のⅩ線撮影と同じく頭部が上方、下肢が下方にし、頭尾側方向、左右方向に360度任意の角度で回転させ画像を表示します(図3)。また胎児の骨盤の情報は重要で、MIP画像の追加で骨盤や手部をトリミングし、正面像を基準に頭尾、左右方向に360度回転した画像をルーチンで作成することが推奨されます(図4)。
3. 超低線量設定胎児CT
著者の施設ではGE社の64列MDCT, Discoveryを使用しており、胎児CTの画像は全例Full MBIRであるVeoに元画像を送り、ノイズを除去しWorkstationで3D作成をしている。Veoによるフィルタリングを前提にした場合、被ばく線量設定はCTDIvol 0.5mGyと極端に下げることができます4)。しかし、Full MBIRがない場合には推奨されません。上の図2~4はこの超低線量設定で行われた胎児骨格3DCTです。
おわりに
骨系統疾患とは何か?なぜ胎児期にCTが必要なのか?など疑問に思われた放射線科の先生やコメディカルの方々、妊婦さんやご家族の皆さんにご理解いただき、このPIJONの記事が少しでも参考になれば幸いです。
参考文献
- Mortier GR, Cohn DH, Cormier-Daire V et al: Nosology and classification of genetic skeletal disorders: 2019 revision. Am J Med Genet A. 2019 ;179 :2393-2419.
- 骨系統疾患コンソーシウム http://www.riken.jp/lab-www/OA-team/JSDC/about-us.html
- Miyazaki O, Sawai H, Yamada T, et al. Follow-Up Study on Fetal CT Radiation Dose in Japan: Validating the Decrease in Radiation Dose. AJR Am J Roentgenol. 208:862-867. 2017.
- Imai R, Miyazaki O, Horiuchi T, et al. Ultra-Low-Dose Fetal CT With Model-Based Iterative Reconstruction: A Prospective Pilot Study. AJR Am J Roentgenol. 208:1365-1372. 2017.
今井 瑠美(国立成育医療研究センター 放射線診療部 主任技師)