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血管撮影・IVR(放射線技師の立場から)

血管撮影・IVRの現状と実施に際しての考え方

血管撮影は画像診断の一つ、IVRは血管撮影を用いた治療行為を指します。

ところで超音波・CT・MRIによる画像診断は、極めて高画質化しています。以前は血管撮影が血管を描出する画像診断のゴールドスタンダードでしたが、前記のような代替となり得る検査の精度向上により、侵襲性の高い血管撮影が選択される機会は少なくなりました。

しかしながら、血管撮影でしか得ることが出来ない情報も存在します。そこで放射線の影響を受けやすい小児に対する血管撮影は、小児という被写体の特徴に合わせた装置の使用が求められています。

小児では放射線の影響を受けやすいため、正当化と最適化の確たる遵守のもとでの放射線診療が要求されます。血管撮影やIVRの臨床現場は、X線透視・X線撮影(以下、透視・撮影)という放射線の照射と画像診断の繰り返しが行われ、治療が完遂するまで続きます(図1)。

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図1:血管撮影・IVRの正当化と最適化のイメージ

これらの透視・撮影で正当化および、最適化が担保されなければなりません。たとえ使用する放射線量が診断参考レベルやガイドラインと比較して低くても、また検査や治療内容として正当化・最適化された診療であっても、現場で行われる透視・撮影が「なんとなく」行われたのであれば、本当の意味での正当化・最適化とは言えません。常に根拠のある説明が出来ることで適切と言えます。血管撮影・IVRは、対象となる小児が受ける診断・治療に関する恩恵と、被ばくというデメリットを対比させて考察されるべきです。

放射線量の指標

血管撮影装置で知ることができる放射線量の指標は、面積線量積と患者照射基準点での空気カーマです。面積線量積は、コリメータユニットの前面に備わる面積線量計での実測値(一部の装置では計算値)で、面積線量計の設置位置での放射線量(空気カーマ)と照射野面積の積で表すことができます。他方、患者照射基準点での空気カーマは、アイソセンターより15cm X線管側の点で計測される放射線量で面積線量積より算出されます(図2)。

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図2:アイソセンターと患者照射基準点

日本では、装置やプロトコルの比較を行うための指標には、基準線量(入射表面線量)を用い、臨床での放射線管理には、患者照射基準点の入射線量、面積線量積が用いられています(図3)。

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図3:入射表面線量と入射線量の違い
  • 基準線量
    入射表面線量(mGy)
    Ka,e:Entrance-surface air kerma

◇臨床での装置表示線量
患者照射基準点の入射線量(mGy)
Ka,r:Incident air kerma at the patient entrance reference point
面積線量積(Gy・cm2)
PKA:Air kerma-area product

放射線量に関するデータの活用

血管撮影装置で得た放射線量に関する数値を、そのまま放射線被ばくの評価とすることはできません。組織反応(確定的影響)に関連する皮膚表面線量へ変換せねばなりません(図4)。確率的影響に関連する実効線量への変換について、次に示す(式1)にしたがい(表1)、当該データを用いた放射線被ばくの評価を行うことができます。

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図4:組織反応の推定(皮膚表面線量の算出)の例

装置の表示値から皮膚表面線量を算出する。
*被写体は患者照射基準点高さに配置、装置表示値の補正係数:1(装置表示値=入射線量)、テーブルの吸収計数:0.15、後方散乱係数:0.36、組織線量変換係数:1.06として算出

実効線量=面積線量積×変換係数(k)・・・(式1)
表1:小児心臓カテーテルでの変換係数の例 (文献より転載)
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変換係数の1例2.5mm ALフィルタ、正面管:X線管電圧 55-67kVp、側面管:64-84kVpの条件で算出されている。 体格に大きく影響を受けるため細かに区分されている。文献により変換係数の単位(Sv/mSv、Gy・cm/cGy・cmなど)が異なるため、その変換では単位に注意する。

Kondo.C: Ionizing Radiation and Its Safe Consideration in Pediatric Cardiovascular Imaging.
Pediatric cardiology and cardiac surgery 2009; 25 (5), 659-664.

診断参考レベル(DRL)について

小児は施設数・データ数ともに乏しく離散的です。これは、小児の体格が成長により大きく変化すること、施設、手技によりそれぞれの値が大きく異なる、つまりバラツキがあるためです。

本来、活用を願いたい指標ではありますが、現時点では小児領域のDRL個々施設のデータの比較には慎重を期すべきです。DRLは、最適化されたプロトコルで行われた検査データを集め、統計学的な処理と議論を経て算出するものです。要因(装置の基準線量、手技の難易度、小児の体格など)が解析されていない数値のみの比較は、最適化のプロセスへの影響が非常に大きいと推察されます。小児の血管撮影・IVRは、次項、「小児の撮影技術」に示す撮影技術を取り入れて実施されることを願います。

2020年7月3日に公開されたJapan DRL2020では、小児心臓領域における診断カテーテル検査・治療、全ての年齢層を合算したDRLが公表されました。また検査と治療、年齢幅に区分して設定されたDRL 値も公表されており、これらのデータをご確認いただければ幸いです。


小児の撮影技術

現行の血管撮影装置は、検出器への入射線量が一定となる仕様です。つまり同じ被写体、幾何学的条件が同一であれば常に一定の被ばく線量といえます。

小児の血管撮影では事前に作成したいくつかのプロトコルを検査中使い分けることが一般的で、検査中に放射線量や画像処理に関する細かな設定を逐一変更することはしません。つまり、十分な検証に基づき調整された、いくつかのプロトコルを検査の内容や進捗に合わせて使い分ける運用です。そのため、小児の血管撮影の場合、部位に応じた小児専用のプロトコルの作成が不可欠です。

そのプロトコルの作成と導入では、被写体としての小児と成人の違いを明確に意識することが大切です。その際、以下の技術についての検討が不可欠です。

  • グリッドレスプロトコルによる検査
  • 透視保存の活用と撮影回数、フレームレートの低減
  • 拡大の必要性についての再考
  • 付加フィルタ(Cuフィルタ)の活用
  • 露光領域の把握(調整)
  • 動きに対する対応(フレームレート、画像処理、パルス幅)
  • 焦点サイズの影響

グリッドレスプロトコルによる検査

グリッドは大変優秀な散乱線除去器具ですが、同時に一部の直接線も除去し、検出器への入射線量の減弱を引き起こします。成人の体格であれば、除去される散乱線による画質改善効果が上回りますが、小児のような小さな被写体(薄い体厚)では、散乱線が発生しにくいため、安易なグリッドの使用は、「過剰な線量」≒「良質すぎる画質」の原因となることもあります。最近の血管撮影装置は、容易にグリッドが外せる仕様ですので体格や手技の内容に合わせて、グリッドを外して検査を行うことを検討するべきです。

透視保存の活用と撮影回数、フレームレートの低減

撮影線量は透視線量と比べて非常に高いため、撮影線量自体の低減は、非常に効果の高い放射線被ばくの低減手法です。透視保存の活用による撮影回数の低減、撮影や透視のフレームレートの低減など放射線を照射する時間を短くすることが効果的です。

拡大の必要性についての再考

照射野の拡大による画像拡大は放射線量の出力の増加となります。小児に限ったことではありませんが、プロトコルの設定では、もっとも使用頻度が高いと考えられる照射野サイズを決定し、そこに併せて基準線量を調整します。広い照射野を基準とした場合には、手技のほとんどで、想定した放射線出力よりも過剰な出力が生じます。照射野が限定される小児では、成人とは違う照射野を基準とすることで、過剰な被ばくを防ぐことができます。放射線出力の増加を伴わないデジタルズーム機能の活用が有効な手法ですので、ソフトウェアによるデジタルズーム機能を積極的に活用することが放射線被ばくの低減に効果があります。

付加フィルタの活用

付加フィルタ(Cuフィルタ)の使用により、画像の構成に寄与しない軟線成分を除去できます。X線管の負荷が少ない小児では取り入れ易く、かつ効果の高い被ばく低減の手法です。

露光領域の把握

照射面積を小さくできる可動絞りの活用は、患者の被ばく低減に有効です。しかし、可動絞りが露光領域(X線検出器上で自動的に線量決定がされる受光領域)を遮る場合には、X線出力の過剰を生じさせます。可動絞りの使用では、露光領域の大きさや位置、形状などを意識することが大切です。

動きに対する対応(フレームレート、画像処理、パルス幅)

小児の呼吸数・心拍数は成人と比べて多いため、動きに起因する鮮鋭度の低下(ボケ)の抑制が画質の担保には欠かせません。静止位相を捉えるためにフレームレートを増加させるという考え方もありますが、フレームレートの増加は、放射線量の増加となるため、放射線被ばくの低減を念頭に置いた場合に第1選択の画質改善手法ではありません。

撮影プロトコルからのアプローチでは、パルス幅を小さくすること、画像処理からのアプローチでは、動きの影響を受けにくい処理(時間軸方向のフィルタ)の選択が、動きに起因する鮮鋭度の低下の改善に有効です。特に前者は、放射線を出力する時間を減らすことにもなりますので被ばく低減手法として非常に効果的です。

忘れてはならない焦点サイズの影響

焦点サイズが大きいほど画像の鋭度は低下します。特にグレーデル法*を用いる場合には、その影響は顕著となります。小児のような被写体(薄い体厚)は、管電流を低く設定することができますので、小焦点を利用しやすい環境です。

*検出器と被写体との間に距離(エアギャップ)を設け、散乱線除去の効果を得る画質改善法。空気中によるX線減弱効果のことをグレーデル効果といいます。


参考文献

  1. 放射線撮影分科会: 放射線技術学叢書34 Interventional radiologic technology. 日本放射線技術学会 2014.
  2. Kondo.C: Ionizing Radiation and Its Safe Consideration in Pediatric Cardiovascular Imaging. Pediatric cardiology and cardiac surgery 2009; 25 (5), 659-664.
市田 隆雄(日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構 副理事長,
大阪市大 中央放射線部 保健主幹長)

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