X線検査の種類により被ばく線量が異なるため、将来発がんのリスクも、無視できるほど低いものから中等度のものまであります。
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WHOリスクコミュニケーションの紹介
『Communicating radiation risks in pediatric imaging』
WHOは2016年に小児画像診断におけるリスクコミュニケーションのための冊子『Communicating radiation risks in pediatric imaging』を刊行しました(図1)。また同書を医療被ばく研究情報ネットワーク(Japan Network for Research and Information on Medical Exposure; J-RIME)医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)が日本語翻訳を行い(図2)、現在同書はオリジナルの英語版も日本語翻訳版も無料でダウンロードが可能です。
WHOのホームページでは、本書は日本語版のほかにポルトガル語版も作成されています(PIJONリンク集をご参照ください)。
図1:英語版
WHOが刊行した小児画像診断におけるリスクコミュニケーションのための冊子『Communicating radiation risks in pediatric imaging』
図2:日本語版
同冊子をJ-RIMEが日本語翻訳を行った日本語版
リスクコミュニケーションとは何か?
あるリスクについて関係者間(ステークホルダー)で情報を共有し、対話や意見交換を行い、意思の疎通をすることです1)。
それによって、リスクの相互理解を深め、信頼関係を構築します。私たちは日常的にリスク情報の受信者でもあり、発信者でもあります1)。リスクコミュニケーションは1.情報の伝達から始まり、2.意見の交換、3.相互の理解、4.責任の共有を経て、5.信頼の構築へ至ります1)。本書はこれらの段階の様々な場面で必要となる知識や他者との会話、質問に対する対処方法、模範的な解答を紹介している優れた書籍です。日本ではまだリスクコミュニケーションという言葉や概念が普及しておらず、その入門書として一読されることをお勧めします。
本書の3つの構成
WHOが刊行した『小児画像診断における放射線被ばくの現状とリスクの伝え方』は、以下の3つのセクションに分かれています。
第1章:科学的背景(Scientific background)
第2章:放射線防護の概念と原則(Radiation protection concepts and principles)
第3章:便益とリスクに関する対話(Risk-benefit dialogue)
第1章:科学的背景 (Scientific background)
第1章では、小児画像診断における便益とリスクに関する対話の支援に役立つと思われる放射線に関する科学的情報を扱っており、1.1節では放射線の種類と被ばく線源について説明し、画像診断における電離放射線の利用について最近の動向の概要を示しています。
1.2節では、小児検査における放射線被ばく線量を提示し、小児期の放射線被ばくに関する既知のリスクおよび潜在的なリスクの概要を示しています。
以下の表1は、1歳、5歳、10歳の患児についていくつかの小児検査に関するがん発症リスクの定性的特徴を示したものです。
第2章:放射線防護の概念と原則
小児画像診断のリスクコミュニケーションの際に、リスクを制御できること、適切な検査で患者の被ばくを減らす方法を選択することで、臨床的効果を低下させることなく便益を最大限に高められることを伝えるのが重要です。
2.1節では放射線防護の概念と原則を取り上げ、それらが小児画像診断にどのように適応されるかを論じています。PIJONでも紹介している米国放射線専門医会(ACR)ガイドラインや英国王立放射線科専門医会(RCR)のガイドライン(iRefer)などを紹介しています。
2.2節では業務を改善するために医療用放射線に関する安全文化を確立、維持するための重要なポイントについてまとめています。
以下の表2のような患者の放射線量に影響を与える調整可能なCT撮影技術が紹介されています。
第3章:便益とリスクに関する対話
小児の画像診断における効果的なリスクコミュニケーション方策の実施には特有の配慮を必要とすることが多いです。第3章ではこの対話を成立させるためのさまざまな手法について解説しています。
3.1節では質問および回答例を含む、便益とリスクに関する話し合いをサポートするための実践的なヒントが提供されています。
本表は小児画像診断におけるリスクコミュニケーションの具体的なやりとりを紹介しています。患児の保護者、両親から高頻度に質問されるリスクや便益についての質問と、それについての模範解答例を示しています。小児画像診断に携わる医師やコメディカルの方が一度は目を通し、頭の片隅に記憶しておきたい内容です。
3.2節では、小児画像診断における放射線リスクコミュニケーションに関するいくつかの倫理的な問題について検討しています。冊子から抜粋した表3は具体的な親御さんとの診察中や外来、病棟での問われる頻度の高い質問に対する模範的な解答例の一覧です。
このような臨床現場に即したコンテンツが多く用意されている、優れた冊子となっています。
3.3節では、医学界において対話を作り出すうえでの様々なシナリオとキーパーソンについて考察しています。
まとめ
2020年4月より施行される新医療法では、放射線診療を行う際に、放射線被ばくの線量やその影響、被ばくも考慮した上での放射線診療の必要性、医療被ばくの低減に関する取り組みについて事前に患者さんに説明すること。また、この説明には検査依頼医が責任を持つことが推奨されています。このような状況の中で、本冊子は数多くの有用な情報を与えてくれることと思われます。
また、放射線科医や診療放射線技師のみならず、上記のごとく放射線科以外の依頼医師のためのよき手引書となることが予想されます。ぜひご一読をされることが望まれます。
1)リスクコミュニケーションの進め方 レジリエントメディカル
https://resilient-medical.com/risk/communication-definition-example
All publications published by WHO CC BY-NC-SA 3.0 IGO;