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小児CTの新しい診断参考レベル Japan DRLs 2020 -どこがどのように変わったの?-
はじめに
診断参考レベル(diagnostic reference level: DRL)の紹介文でもお話ししましたが、2020年7月に最新の診断参考レベル(Japan DRLs 2020)が公開されました1)。このDRLは最新の医療被ばく線量に関する全国実態調査の結果を解析し、2015年に公開されたDRL 2015を改訂したものになります。
これまで国内の医療機関ではDRL 2015を活用した医療被ばくの最適化が行われてきました。DRL公開後もCT装置の技術革新は進み、現在では様々な被ばく低減機能が搭載されたCT装置が急速に普及しています。また2020年4月に改正された医療法施行規則でDRLが我が国の医療被ばく管理の根拠法令に取り入れられ、今後はDRL 2020を活用した医療被ばく管理や最適化が進んでいくことが期待されます。
ここでは小児のX線CT検査に対するDRL について、DRL 2015から変更された点についてお話をします。
DRLs 2020で示された小児X線CT検査のDRL
今回、改訂された小児CTのDRL値は、日本放射線技術学会 学術調査研究班 「我が国の小児CT で患児が受ける線量の実態調査2018(班長 竹井泰孝:川崎医療福祉大学)」(以下、竹井班)が実施した線量調査で回答が得られた37施設のデータ、ならびに千葉撮影技術研究会が2018年に実施した千葉県内の医療機関の小児CT 線量調査を参考にしてDRL 値が設定されました。DRLs 2020で改訂された小児CT検査に対するDRLを表1、表2に示します。
小児CTのDRL値はDRLs 2015と同様、CT装置上に表示される被ばく線量の目安となるCTDIvol (mGy)とDLP (mGy・cm)の値が使用されています。なお装置によっては表示される値が規定されるファントムの大きさが異なる場合があるため、頭部CT検査では16 cm径のファントムによる値、胸部および腹部CTでは16 cm径と32 cm径のファントムによる値が併記されています。
DRLs 2020はDRLs 2015とどこが変わったの?
DRLs 2020の小児CT DRLでは、DRLs 2015のDRLと比べて2つの考え方が変更されました。1つ目の変更点はDRLの値を決めるために基準となる小児の体格の定義です。
DRLを活用した医療被ばくの最適化を行うためには、各医療機関で実施されているCT検査において、標準的な体格の患者が受ける医療被ばく線量の代表値を把握することが必要となります。
DRLs 2015では小児CTの標準的な体格を決める項目として、1歳未満、1歳以上~5歳未満、5歳以上~10歳未満の3つの年齢区分を用いておりましたが、DRLs 2020では新たに10歳以上~15歳未満の年齢区分を加えた4区分に変更されました。さらに小児の胸部、腹部CTについては、国際放射線防護委員会(ICRP)がDRLの考え方や医療現場での活用法についての勧告となる Publication 1352) において、小児の体格基準としての利用が推奨されている5 kg未満、5 kg以上15 kg未満、15 kg以上30 kg未満、30 kg以上50 kg未満の4つの体重幅による区分も新たに追加されました。
新たに追加された体重区分による体格分類が採用された理由として、小児は同じ年齢であっても、発達の違いによって胸部や腹部の厚みが大きく異なってしまうことによります。また体重による区分を行うことによって、国や人種の違いなどによる体格差の影響が小さくなり、国際的なDRLの比較も容易になるという利点もあります。
次に2つ目の変更点としては、線量調査で得られた線量分布の中央値が示されました。 DRLを用いた医療被ばく管理では、自施設の医療被ばくの代表値とDRLを比較し、代表値がDRLを上回っている場合には線量低減策の検討を行うことが求められています。しかし75パーセンタイル値で設定されることの多いDRLは、線量分布の上位25%の高すぎる線量の目安に過ぎず、自施設の代表値がDRLを下回っていたとしても医療被ばくが十分に最適化されているというお墨付きを与えるものでもありません。
そこでICRPは前述のPublication 135において、自施設の代表値がDRL値を下回っている施設に対し、次の最適化の指標として線量分布の中央値(median)を利用し、医療被ばくのさらなる最適化を進めていくことを推奨しています。
そのようなICRPの方針を受け、J-RIME DRLs 2020では全てのモダリティのDRL値において、設定の基となった線量分布の中央値を示しました。表3から表12に小児の頭部、胸部、腹部CTの75パーセンタイル値、中央値を示します。なおこれらの値の詳細については、2020年7月3日にJ-RIMEから公表された日本の診断参考レベル(2020年版)1)をご参照ください。
どうやってDRLs 2020を活用して医療被ばくを最適なものにするの?
2019年3月に医療法施行規則の一部が改正され、2020年4月からはX線CT検査、血管撮影、核医学、PET検査によって患者が受ける被ばく線量の記録、DRLs 2020を活用した線量管理が義務付けとなりました。
DRLsを用いて医療被ばくを管理していくためには、各医療機関で行われている放射線検査によって標準的な体格の患者が受ける医療被ばく線量の代表値を把握しておく必要となります。ICRPはPublication 135において、自施設の線量の代表値を得るためには、少なくとも20例、可能であれば30例の標準的な体格の患者が受ける医療被ばく線量のデータを調査することを求めています2)。
また2018年4月に実施された診療報酬改定、さらに2020年4月の改正医療法施行規則の施行を受け、近年、各医療機関では医療被ばく線量を管理するためのシステム導入が急速に進んでいます。
日本では2012年以降に販売されたX線CT装置はJIS規格3)で装置上に線量情報を表示させること義務化され、さらに装置上に表示された線量情報をオンラインで出力させることが可能となっています。前述の線量管理システムでは線量情報をオンラインで収集し、医療被ばくの管理や解析などが行えます。これらのシステムを効果的に活用することで自施設で実施されている放射線検査において、標準的な体格の患者が受ける医療被ばく線量の代表値を容易に把握することができ、DRLと比較することによって自施設の医療被ばくが高すぎる線量を用いていないかを判断することが可能となります。
しかしCT装置上に表示し、線量管理システムに記録されたCTDIvolやDLPなどの値はJISに基づいて表示された値に過ぎず、患者が受けた線量を直接的に示したものではありません。そのため表示された値の精度を検証することなくそのまま用いる線量管理システムは、単なる「線量表示値」という数値の管理を行っているに過ぎません。そのためICRPは線量表示値を利用した患者の医療被ばく線量管理を行う際は、事前に線量表示値の定義や精度を確認し、必要に応じてに線量表示値を補正して線量管理システムに記録することを強く求めています2)。
さらに2020年4月の改正医療法施行規則の施行により、多くの医療機関で線量管理システムを用いた医療被ばく管理を行っていくことが予想されます。線量管理システムを用いて医療被ばくを適正に管理するためには、装置表示値の精度検証は不可欠であり、精度検証は装置を使用する側の重要な業務の一つになりつつあります。
臨床現場でCT装置を操作し、かつ医療被ばくの適正管理や最適化においても重要な役割を担っている診療放射線技師は、放射線測定器を用いた線量表示値の表示精度の検証などのCT装置の品質管理を実施しており、医師とともにDRLs 2020を活用した医療被ばくの最適化を実践しています。
参考文献
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医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)他,日本の診断参考レベル(2020年版), National diagnostic reference levels in Japan (2020) - Japan DRLs 2020 -,http://www.radher.jp/J-RIME/report/JapanDRL2020_jp.pdf 2020年7月6日
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ICRP, 2017. Diagnostic reference levels in medical imaging. ICRP Publication 135. Ann. ICRP 46(1).
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日本工業規格. JIS Z 4751-2-44:2018, X線CT装置の基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項, https://www.kikakurui.com/z4/Z4751-2-44-2018-01.html