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妊娠と妊娠糖尿病

  • 妊娠糖尿病とはどのような病気ですか?
    • 妊娠中に血糖が高くなることで注意を必要とする糖代謝異常には、大きく分けて3種類があります。「妊娠糖尿病」と「妊娠中の明らかな糖尿病」と「糖尿病合併妊娠」です。
      妊娠糖尿病」は、妊娠中に発見または発症した糖尿病ほどではない軽い糖代謝異常です。一方、「糖尿病合併妊娠」とは、糖尿病といわれていたひとが妊娠した状態です。「妊娠中の明らかな糖尿病」には、もしかしたら妊娠前から診断されていない糖尿病があったかもしれないという糖代謝異常などが含まれます。

  • どうして妊娠糖尿病になるのですか?
    • 妊娠すると血糖値が上がりやすくなります。糖代謝異常というのは、すい臓で作られるインスリンというホルモンの量や働きが不十分となり、血糖の調節がうまくいかなくなった状態です。インスリンは血糖を下げる働きがあります。妊娠すると、胎盤からでるホルモンの働きでインスリンの働きが抑えられ、また胎盤でインスリンを壊す働きの酵素ができるため、妊娠していないときと比べてインスリンが効きにくい状態になり、血糖が上がりやすくなります。このため、妊娠中、特に妊娠後半は高血糖になる場合があり、一定の基準を超えると妊娠糖尿病と診断されます。

  • 妊娠糖尿病と診断されました。赤ちゃんに影響がありますか?
    • 妊娠中のお母さん(母体)が高血糖になることで、母体だけでなく赤ちゃんの合併症をもたらします。妊娠糖尿病を適切に治療すると、巨大児が減ったり妊娠高血圧症候群の合併が防げたりするという研究結果があります。これにより妊娠糖尿病を治療しなかった人と比べて帝王切開となる人が減ります。

  • 妊娠糖尿病は、どのように診断するのですか?
    • 妊娠糖尿病の診断は、主に血液検査で行われます。血糖の血液検査には以下のような種類があります。

      • 随時血糖(ずいじけっとう)
        通常の血糖検査です。普通に食事を摂取した状態で血糖を測定します。
      • 空腹時血糖(くうふくじけっとう)
        食事を取らない状態での血糖検査です。通常、朝食を食べない状態で来院していただき検査を行います。
      • ブドウ糖負荷検査
        糖分の入った検査用のジュースを飲んで血糖を検査する方法です。
        例)50gグルコースチャレンジテスト、75gブドウ糖負荷試験

       妊娠糖尿病の診断は次のように二段階に分けて検査を行います。

      1. スクリーニング検査
        すべての妊婦さんを対象に、妊娠糖尿病かもしれない人をひろいあげる目的の検査です。当院では妊娠初期の随時血糖と、中期の50gグルコースチャレンジテストでスクリーニングを行います。妊娠初期の随時血糖95mg/dl以上、妊娠中期のグルコースチャレンジテスト140mg/dl以上をスクリーニング陽性と判断します。
        陽性の場合、次の検査2.へすすみます。

      2. 診断のための検査
        妊娠糖尿病の診断のために、75gブドウ糖負荷試験を行います。
        2010年7月に妊娠糖尿病の診断基準が改定され、以下のような基準となりました。

      以下のような妊娠糖尿病になりやすい体質が疑われる場合は、担当医からご説明の上1.のスクリーニング検査は行わず、はじめから75gブドウ糖負荷試験を行う場合があります。

      妊娠糖尿病になりやすい体質が疑われる場合
      • 肥満
      • 家族に糖尿病の人がいる
      • 高年妊娠(35歳以上)
      • 尿糖の陽性が続く場合
      • 以前に大きな赤ちゃんを産んだことがある人
      • 原因不明の流産・早産・死産の経験がある人
      • 羊水過多(ようすいかた:羊水が多い)
      • 妊娠高血圧症候群の人、もしくは過去に既往がある人

      また、妊娠糖尿病とは別に、妊娠期に糖尿病がはじめて見つかる場合があり「妊娠中の明らかな糖尿病」として別に判断されます


      ※1:妊娠中の明らかな糖尿病には、妊娠前に見逃されていた糖尿病と、妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常、および妊娠中に発症した1型糖尿病が含まれる。いずれも分娩後は診断の再確認が必要である。
      ※2:妊娠中、特に妊娠後期は妊娠による生理的なインスリン抵抗性の増大を反映して糖負荷後血糖値は非妊時よりも高値を示す。そのため、随時血糖値や75gブドウ糖負荷試験後血糖値は非妊時の糖尿病診断基準をそのまま当てはめることはできない。これらは妊娠中の基準であり、出産後は改めて非妊娠時の「糖尿病の診断基準」に基づき再評価することが必要である。

  • 自己血糖測定とはなんですか?
    • 妊娠糖尿病と診断されたら、妊娠中の血糖値をしっかり把握し、それを参考に食事療法・運動療法・薬物療法を行って血糖を健常妊婦さんに近い状態にコントロールすることが大切です。自己血糖測定とは、患者さん自身が血糖を測ることです。それにより、血糖のコントロールがうまくいっているかどうかチェックしていきます。
      人の血糖の動きは一日の中でも大きく変動し、個人差も大変大きいものです。血糖を適切にコントロールするためにはそうした血糖の動きをチェックする必要がありますが、そのためには頻回の採血が必要になります。それをご自宅でも手軽に測定できるようにしたものが血糖自己測定器です。血糖自己測定を行いご自分の一日の血糖の変化を詳しく知ることにより、その後の食事・運動・薬物療法を適切に行って理想的な血糖値により近づけることができるようになります。
      血糖値を正確に把握するために、多くの場合: 毎食前・毎食後2時間(食事開始後2時間)・寝る前(必要時)の計6回(必要時7回)測定します。ただし、1日や週に測定する回数は、血糖コントロール状態によって個人差がありますので、主治医の指示に従ってください。

  • 妊娠中の血糖の目標値は、いくつですか?
    • 妊娠中は血糖を健常妊婦さんに近い状態にコントロールすることが大切です。血糖コントロールは以下の項目で行います。
      1. 血糖値
        血糖値は 採血した瞬間の血糖値を反映しますが一定の期間内での血糖値の変動や平均値を知ることはできません。体のなかでは「血液中のブドウ糖の量」が、ある一定の範囲内でバランスよく保たれています。

      2. HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)
        血糖値が測定したその瞬間の血糖値を反映させるのに対して、HbA1 c値は過去約1~2ヶ月間という長期間の血糖コントロールの指標になります。血液の中にある酸素を運ぶものがヘモグロビンです。このヘモグロビンにブドウ糖がくっついたものがHbA1cです。HbA1c値は、血糖値が低ければ減少し、高ければ増加します。

      3. GA(グリコアルブミン)
        HbA1c値が過去1~2カ月間の長期間を示すのに対して 約2週間前後という短期間の血糖コントロール指標としてGA値があります。血液の中にあるアルブミンにブドウ糖がくっついたものがGAです。GA値は、血糖値が低ければ減少し、高ければ増加します。

  • 妊娠糖尿病と診断されました。どのような食事をしたらよいのでしょうか?
    • 食事を正しくとることで血糖コントロールを行い、赤ちゃんの発育に必要な栄養をとり、お母さん自身の健康も維持していきましょう。適切なエネルギー摂取量については、下表(適正エネルギー量の求め方)を参考にしますが、生活活動量、妊娠中の経過等により修正する場合もあります。


  • 分割食とはどのような食事療法なのでしょうか?
    • 1日3食、規則正しく適正量を食べても食後の血糖値が高い場合は、1日の食事を6回に分けて食べる事があり、この食事方法を分割食と言います。1回の食事量を減らすことで食後の血糖上昇を抑えます。6回の分割食は3回の食事と3回の間食(80kcal~160kcal)を組み合わせます(図)。
      間食例は、おにぎり、焼き芋、シリアル・牛乳、焼きうどん、クラッカー・飲むヨーグルト、サンドイッチ、フルーツヨーグルト和え などがあります。

  • 妊娠糖尿病と診断されました。運動しても良いでしょうか?
    • 妊娠中の運動は血糖コントロールの改善につながる効果がありますが、妊娠の状況によっては運動をできない場合があります。また、不適切な運動は逆効果です。妊娠中の運動は、必ず主治医の許可を得て行いましょう。妊娠中の運動には血糖と血流を改善する有酸素運動が効果的です。具体的には、ウォーキング、体操、ヨガ、エアロビクスなどです。
      食前食後の30分の運動は避け、食後1~2時間で行うのがいいでしょう。準備運動、整理運動を必ず行いましょう。下記の注意点をお守りください。

  • 妊娠糖尿病と診断されました。インスリン注射が必要ですか?
    • 健康な妊婦さんの血糖値目標に達成することが食事療法のみでは不可能なときにはインスリン療法が加わります。妊娠中の妊娠糖尿病や糖尿病の薬物治療には、飲み薬ではなく原則としてインスリンを使用します。飲み薬は、胎盤を通過して胎児に移行してしまう可能性を含めて、赤ちゃんへの安全性が確認されていないものが多かったり、妊娠中はインスリン治療のほうがより確実に血糖を下げられるからです。

  • 妊娠糖尿病で、インスリン注射をしています。低血糖が心配です。どのようなことに気をつけたらよいでしょうか?
    • 高い血糖の状態を是正するためにインスリンの補充を行いますが、ときに血糖が必要以上(正常域以下)に下がりすぎてしまうことがあり、この状態を低血糖といいます。すぐに対応すれば、危険は回避出来ますが、適正な対応がなされない場合は重篤な症状をもたらします。

      (1) 低血糖症状ってどんな感じ?

      初期症状

      発汗(じっとり、変な汗をかく)、手足のふるえ、動悸(どきどきする)、異常な空腹感、体が熱く感じる など

      • 低血糖にはいろいろな症状がありますが、誰でも同じように順序よくこれらの症状が出るわけではありません。症状は極めて個性的で、個人差が大きいのです。
      • この時が一番重要です!サインを軽視せず、早めの対応が肝心!!

      →しかし、何もしないでおくと・・・

      意識障害

      脱力(体に力が入らない)、眠気、疲労感、集中力の低下、物が二重に見える など

      この状態になっても糖分を摂らないでいると、
      →体に力が入らないので立てない
      →ブドウ糖が取りに行けない→さらに悪化→意識障害発生・・・
      患者さま本人ではどうすることもできなくなってしまいます。

      低血糖昏睡

      意識がなくなってしまいます。
      このような場合には救急車を呼ぶなどが必要です。
      早めの対応が肝心です。
      長時間の場合には、赤ちゃんにも影響が与えてしまう可能性があります。

      ※低血糖昏睡まで至るケースはまれですが、備え早めの対応が肝心です

      (2) 低血糖時の対応

      ブドウ糖(グルコースサプライを2個(約10グラム、約40カロリー)又は糖分約10gを摂取します。いつでも、どこでも グルコースサプライなどをすぐ摂取できるよう、身につけておく(例えば、財布の中など)ことが重要です。(手元に血糖測定器がありすぐ測定できる状態であれば、血糖値を測定してみると振り返りに役立ちます。ただし、緊急性を要するときにはまずは糖分摂取です。)
      家族や職場の方にも低血糖を知っておいてもらえると良いかと思います。自分自身で対処できなくなってから周囲の方が気づかれた時、その威力を発揮する可能性は大きいと考えられます。どうしても近くに砂糖など糖分がない場合は市販のジュースを摂取で危険を回避出来ます。

  • 妊娠糖尿病でした。産後に気をつけることはありますか?
    • 妊娠糖尿病の人は産後に血糖が正常化することが多いです。しかし、妊娠糖尿病と診断され、産後にいったん正常化した人を対象にした研究によると、20年から30年後にはその半数が糖尿病になった、という報告があります。いったん血糖が正常化すると、定期的な検査を受け忘れることが多くなってしまいますが、妊娠糖尿病だった人は糖尿病に移行しやすいため、定期的なフォローアップが非常に大切です
      まずは産後1~3ヶ月で75gブドウ糖負荷試験を行い、血糖の状態が正常化していることを確認しましょう。正常化していても、年に1回のブドウ糖負荷試験を行い、糖尿病へ移行しないように注意しましょう。特に、離乳食が開始になり、おっぱいを卒業するころからの体重増加に注意しましょう。成育医療研究センターでは、産後1~3か月に母性内科でブドウ糖負荷試験を行っています。その後の定期チェックのために、以後は、封書によるブドウ糖負荷試験外来ご案内システムへの登録をおすすめしています。
      興味のある方は、妊娠中に「血糖が高い」といわれた方へ ~出産後も気をつけて欲しいこと~のリーフレットもご覧ください。

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