バクロフェン持続髄注療法
バクロフェン持続髄注療法とは
脳性麻痺や急性脳炎・脳症後遺症など、脳に何らかの障害のある患者の症状として、手足や首・背中などの筋肉に余計な力が入ってしまうことがよくあります。たとえば、股関節を内側に曲げる力が強くて両足がハサミのように交差してしまったり、膝がピンと伸びて曲がらなくなってしまったり、中には背中が反り返ってしまったりすることもあります(写真は脳症後の3歳男児。掲載についてご家族の了承済)。
脳から筋肉に運動の指令が伝わるとき脊髄という部分を中継しますが、こうした症状は脳から脊髄に指令がうまく届かないことで生じ、痙縮と呼ばれます。この痙縮による悪影響として、呼吸がしづらくなったり、体が変形して楽な格好をとりづらくなったり、痛みを感じたり、良い睡眠が得られなくなったりします。また患者を介助するご家族にとっても、ベッドから車いすへの移動や着替えなどのケアが難しくなります(図1参照)。
バクロフェン持続髄注療法の国立成育医療研究センターの方針
痙縮に対する治療として、リハビリテーションや薬物療法、ボツリヌス毒素筋注療法や整形外科的治療、機能的後根切断術などが行われています。しかし患者の中には、それらでは効果が乏しい、または眠気などの副作用が強く出てしまい十分な治療が出来ないことがあります。バクロフェン持続髄注療法は、痙縮を和らげる飲み薬としてもともと使われていたバクロフェンという薬を、痙縮の元になっている脊髄に直接投与する事で、効果を強めるとともに、飲み薬で生じる眠気などの副作用を減らすことができる画期的な治療方法です。アメリカでは1996年から脳病変由来の痙縮に対して承認され、日本では2007年から小児の痙縮に対して承認されています(写真は先ほどの男児。術後8年経過。掲載についてはご家族の了承済)。
このバクロフェン持続髄注療法を行うには、バクロフェンを少量ずつ24時間持続して脊髄腔に注入するためのポンプが必要であり、このポンプを腹部に埋め込むための手術が必要になります(図2・図3)。
しかし効果が分からないままいきなり手術をするのには抵抗があります。そこで、手術の前に効果を予測するため、「試し打ち」を入院して行います。具体的には、背中の腰の辺りから脊髄腔に針を刺してバクロフェンを注入します。この効果は1時間ほどで現れ、翌日には消失します。この間に痙縮がどれほど和らぐかを神経内科やリハビリテーション科の医師、理学療法士が診察し、またご家族の方々も一緒に効果を実感します。
良い効果が予測される場合は手術を計画します。手術は脳神経外科が担当します。このとき、体格や胃瘻の有無などを見て、ポンプを埋め込む場所が腹部にあるか判断します。一方で、呼吸の状態などの全身状態が手術を安全に受けられるくらい安定しているかどうかを麻酔科が判断します。
以上の評価を受け、大丈夫であればいよいよ手術になります。手術には次の段階があり、数時間かかります。
- 脊髄腔に細いカテーテルを挿入する段階
- 腹部にポンプを埋め込む段階
- 脊髄腔に挿入したカテーテルとポンプをつなぐ段階
手術後は、尿が出づらくなったり呼吸がしづらくなったりといった副作用に気をつけながら、数週間かけて徐々にバクロフェン投与量を増やしていきます。順調に行けば手術後約1ヶ月で退院となります。その後は外来で投与量の調整と薬液の補充を行います。安定すれば約3ヶ月ごとの外来となります。
急激な痙縮の悪化がある場合は救急外来を受診していただき、カテーテルが途中で外れるなどの故障が無いかどうか、原因を調べ適切な対応を行います。
このバクロフェン持続髄注療法には神経内科の他にリハビリテーション科、脳神経外科、麻酔科などの協力が不可欠です。当院では互いの科が連携をとりながら診療を進めています(図4)。
診療実績
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