ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)│小児がん
ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)とは
病態・発症頻度・原因
ランゲルハンス細胞は、枝を伸ばしたような形の樹状細胞のひとつで、組織球に分類されます。皮膚など外界と接する部位に存在しており、病源体などを認識して周囲の細胞に情報を伝えからだを守る免疫システムの重要な役割を担当しています。LCHとは、ランゲルハンス細胞と同じ形質を持った異常なLCH細胞が増殖して、皮膚や骨、内臓などさまざまな部位に多彩な症状をきたす稀な疾患です。小児に多く、発症は小児100万人に5例程度、日本では年間60-70例と推測されます。原因はまだ不明ですが、免疫の調節異常による反応性の病態とする考え方のほか、がんのように増殖する腫瘍性の性質について議論がなされてきました。近年、遺伝子変異についての研究が急速に進んでおり、病態解明とともに新たな治療法の開発につながることが期待されています。
症状
LCHの骨病変は、頭蓋の「こぶ」として気付かれることが多く、骨に丸く穴があきます。乳幼児では塗り薬でなかなか良くならない皮疹からはじまり、急速に複数の臓器へと進展し重篤となる例があります。成人では、喫煙と関連した肺病変がよく知られています。過去には病態に応じてLetterer-Siwe病、Hand-Schűller-Christian病、好酸球性肉芽腫、Histiocytosis Xと呼ばれましたが、現在は全てLCHと表現されます。
・主な所見や部位: 発熱、皮疹(脂漏性湿疹、出血性丘疹など)、溶骨(骨痛、軟部腫瘤、椎体圧迫骨折など)、中耳炎、外耳道炎、肝脾腫、肺(乾性咳、息切れ、のう胞、気胸など)、骨髄(貧血)、リンパ節、胸腺、耳下腺、甲状腺などの腫脹、口腔内(腫瘤、歯のぐらつきなど)、消化管(慢性の下痢)、中枢神経、尿崩症ほか。
診断のための検査
診断には病変部位の生検による病理組織診断が必要です。増殖したLCH細胞は正常のランゲルハンス細胞とは形状が異なり、核のくびれやしわをもつコーヒー豆様の形をしています。免疫染色という方法でCD1aやランゲリンが陽性に染まり診断が確定します。病変部にはリンパ球や好酸球、好中球、マクロファージなどの炎症性細胞もたくさん認められます。病変の広がりや程度の評価には、X線撮影、超音波、CT、MRI、骨シンチグラフィーといった画像検査が必要です。
病型
病変の数や部位によって以下の病型に分類し、それぞれの病型にあった治療を選ぶことが重要です。
- 単一臓器型(single system; SS): 一つの臓器に限られるもの
- SS-s (single site): 皮膚のみ、リンパ節のみ、骨1か所のみ
- SS-m (multi site) あるいはMFB(multi focal bone): 多発の骨病変
- 多臓器型(multi system; MS): 二つ以上の臓器に病変があるもの
- リスク臓器RO(risk organ ; 肝臓・脾臓・骨髄): あり/なし
- 中枢神経リスク部位(眼窩、頭蓋底、側頭骨、顔面骨など): あり/なし
治療
- 単一臓器型: 皮膚や1か所の小さな骨病変では自然に治ることがあります。外科的治療として、骨病変部の組織を取り除く掻把(そうは)が行なわれています。ただし大きな切除は機能を損なうほか、骨の自然修復の妨げとなるため推奨されず、化学療法やステロイドの局所注射も選択肢となります。
- 多臓器型: 乳幼児に多い多臓器型では、1年間の化学療法が行われています。初期の6週間の治療が奏効すれば、その後の経過はおおむね良好ですが、特にリスク臓器とされる肝臓、脾臓、骨髄の病変をともなう例では、より強化した治療が必要な場合があります。溶骨病変は範囲が広く複雑な形の骨も、治療が効くと形状を記憶しているかのごとく修復します。
再燃
LCHは再燃率が高いことが大きな問題です。何度も再燃を繰り返すこともあります。再燃は骨が多く化学療法が有効ですが、再燃例では晩期合併症が心配されます。
晩期合併症について
病変の部位によってさまざまな晩期合併症が問題となるため、長期フォローアップが重要です。代表的な合併症として、視床下部下垂体浸潤による尿崩症が挙げられます。約半数はLCHの診断時までに、残りの半数は数年経過後に尿崩症を生じます。
また、成長ホルモン分泌不全による成長障害が多くみられる他、甲状腺機能低下、性腺機能障害などその他の内分泌ホルモン異常が合併することもあります。まれに、小脳などの中枢神経変性病変を生ずる例があり、定期的なMRI検査がすすめられています。特に中枢神経リスク部位の病変例では、これらのリスクが高いとされています。
ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の治療と国立成育医療研究センターの方針
単一臓器型
病変部位 | 発症年齢 (中央値) |
治療 | 生存率 (%) |
再燃率 (%) |
尿崩症 発症率 (%) |
---|---|---|---|---|---|
単一の骨病変 (SS-s Bone) | 5歳 | 掻把、ステロイド局所注射、低線量の照射(脊髄や視神経障害など緊急適応時のみ)、脊髄や中枢神経への圧迫進展時には生検後に化学療法、扁平椎のみならば生検せず経過観察 | 100 | 3-12 | 3 |
多発の骨病変 (SS-m Bone) | 2-5歳 | 生検後に化学療法 非ステロイド系消炎剤 ビスフォスフォネート |
100 | 25 | 15 |
皮膚病変のみ (SS-skin) | 0歳-成人まで | 生検、経過観察、ステロイド外用、 タクロリムス外用、切除、化学療法、その他 |
100 (一部は多臓器型へ進行する) |
ときどき | まれ |
多臓器型
病変部位 | 発症年齢 (中央値) |
治療 | 生存率 (%) |
再燃率 (%) |
尿崩症 発症率 (%) |
---|---|---|---|---|---|
リスク臓器あり (肝/脾/骨髄) |
<2歳 | 多剤併用化学療法12か月 難治例:治療強化・造血細胞移植など |
80 | 50 | 30-50 |
リスク臓器なし | 4歳 | 多剤併用化学療法6-12か月 | 99 | 30-50 | 30-50 |
国内外の治療成績をもとに、最良と考えられる治療法を提案します。参加可能な患者さまには、日本小児白血病リンパ腫研究グループJPLSGの臨床試験をはじめとする新たな治療法を開発するための臨床試験も提案いたします。再燃時には、病状にあわせてご家族と相談しながら治療内容を検討いたします。
LCHに関する詳しい情報は以下のホームページをご参照ください。
小児がん医療相談ホットラインのご案内
小児がんは発生数が大人のがんにくらべて少なく、診断や治療には高度な専門知識と技術が必要です。国立成育医療研究センター小児がんセンターでは、小児がんの患者さんやご家族からの医療内容に関する相談を随時お受けしています。
電話を受けるのは主に小児がんの治療・看護等の経験が豊富な看護師です。ご相談の内容によっては医師が対応することもあります。それぞれの疾患・治療の理解をサポートし、納得できる医療が受けられるよう支援を行ってまいります。お気軽にご相談ください。
こんなご相談にご利用ください
- 子どもが小児がんと診断された。診断や治療について詳しく知りたい。
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ただし、医学的判断を要する個別の病状や治療などについてのご相談にはお電話でお応えしておりません。セカンドオピニオンや他院の受診をご希望の場合はお手伝いいたします。
小児がん医療相談ホットライン
03-5494-8159月~金曜日(祝祭日を除く) 10時〜16時
- 相談は無料です。通話料のみご負担いただきます。
- 診療中のスタッフが対応いたしますので、電話がつながりにくい場合や即時に対応できない場合があります。あらかじめご了承ください。電話がつながらない場合は、少し時間をおいておかけ直しください。
国立成育医療研究センターの診療体制
LCHの診療は、病変部位や晩期合併症の状態によって、放射線診療部、病理診断部、外科、脳神経外科、整形外科、形成外科、内分泌代謝科、神経内科、消化器科、呼吸器科、皮膚科、耳鼻科、眼科、歯科、リハビリテーション科、その他、多くの診療科との連携が必要です。
診療実績
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※過去10日以内に発熱(37.5℃以上)している場合には、まずは救急センターへお越しください。
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